(※写真はイメージです/PIXTA)
深夜の電話、震える手
「まさか自分の親が、警察のお世話になるなんて思ってもみませんでした。それも、あんな姿で……」
とある地方に住む、専業主婦の田中美咲さん(56歳・仮名)。実家で一人暮らしをしていた父、佐藤健一さん(82歳・仮名)が、ある雪の夜に警察に保護された日のことを振り返ります。
事の発端は、夜10時過ぎに鳴り響いた一本の電話でした。夜の電話は、誰もが不審に思うもの。恐る恐る出ると、相手は美咲さんの実家がある管轄の警察署でした。
――お父様と思われる方を、国道沿いで保護しました
警察官の言葉が頭に入ってきませんでした。実家から国道までは、大人の足でも20分はかかります。しかも少し前にテレビで見た天気予報では、大雪に注意と……。窓の外を見ると、しんしんと雪が降っているのが見えました。そのときは「父で間違いありませんか?」と聞き返すのが精一杯だったといいます。
美咲さんは急いで夫の車で現地へ向かいました。暖房が効くまでの車内、寒さと不安で震えが止まらなかったといいます。1時間後、警察署に到着した美咲さんが対面したのは、あまりに衝撃的な父の姿でした。
「父は、ペラペラのパジャマに革靴を履いていました。雪でびしょ濡れになって、唇は紫色で。パイプ椅子にちょこんと座り、警察から借りたであろう毛布を羽織っていたんです」
美咲さんの顔を見た健一さんは、ホッとしたのか、「おお、美咲か。ちょっとコンビニに行こうと思ったら、道がわからなくなってしまってな」。実家から最寄りのコンビニへ行くには、発見された国道とは反対方面へ歩く必要がありました。家を出た時点ですでに方向を間違えていたのです。
「こんな近所で道がわからなくなるなんて……惨めだな、本当」
ポツリとこぼした健一さんの顔は、今にも泣きだしそうだったといいます。
「父自身、ショックで、不安だったんだと思います。子どものころから慣れ親しんだ家の近くで、道がわからなくなるなんて」
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