奨学金に対する認識は、個人や世代間で多様です。奨学金を「将来への投資」と捉え、自身の学びやキャリア形成のために必要不可欠な制度と考える人がいる一方で、特に家庭を持つ段階になると「借金」としての側面が強く意識され、パートナーやその家族とのあいだで認識のギャップが生じることもあります。本記事では、奨学金がもたらす現実的な影響について、アクティブアンドカンパニー代表の大野順也氏が考察します。
息子との結婚は諦めてくれ…月収32万円・29歳会社員女性、婚約者の両親が大反対した「奨学金の返済額」 (※写真はイメージです/PIXTA)

結婚で突きつけられた「奨学金=借金」という現実

都内在住の会社員・Aさん(32歳)は、2年前、結婚を考えていた現在の夫に奨学金を返済中であることを打ち明けたところ、思いがけない反応を受けた。

 

「え、そんなに借金があるの?」

 

Aさんは大学進学時に、日本学生支援機構の第二種奨学金を利用していた。当時の残債は約270万円、月収は32万円ほどだった(賞与別)。Aさんの兄や姉も同様に奨学金を借りて大学に進学しており、高校時代の友人も利用していたことから、「奨学金=進学のための必要な手段」とごく自然に考えていたのだ。

 

しかし、結婚を控えて将来のライフプランについて話し合うなかで、夫とその家族からは「奨学金とはいえ、結局は借金」「いつまで返済が続くのか」「家計にどれほど影響するのか」と問い詰められた。これを機に、「世間では奨学金が“借金”としてみられているのだ」と痛感し、大きなショックを受けたという。

 

話し合いの末、夫の両親からは「息子との結婚は諦めてくれ」とまで告げられ、一時は婚約破棄寸前まで追い詰められた。しかし夫は徐々に理解を示し、「一緒に乗り越えよう」といってくれた。結婚をする当人間の愛が変わらなかったことから、夫の両親の反対を半ば押し切る形で結婚。現在に至る。

 

「進学のために借りた正当な支援のはずなのに、“負債”として扱われたのはつらかったです」

返済と子育ての両立に悩む30代女性のリアル

現在、Aさんは夫と2歳の息子とともに都内で暮らしている。産休・育休を経て職場に復帰し、現在は時短勤務の正社員として働いている。大学時代に借りた奨学金は約480万円。毎月の返済額は約2万5,000円で、完済は43歳ごろだという。

 

「物価は上がっているのに、給料はなかなか上がらない。保育料、教育費、住宅費、介護費用……将来の支出を考えると、本当に不安です。いまの生活も余裕があるとはいえません」

 

さらに、Aさんには“返済してもらっている”という負い目もある。実際には夫が家計全体のなかで奨学金返済分も含めて支えてくれており、夫婦で協力しながら生活している。しかしそれでも、「自分が背負うべき負担を夫にもかけている」と感じてしまうという。

 

「結婚前に“借金がある人”として見られたことで、どこかで『借りたくて借りたわけではない』『自分だけの責任ではない』という思いが強くなってしまいました。稼ぎどきの30歳で産休・育休を取り、いまも時短勤務です。キャリア形成に響いてくると思うと、やるせなさを感じます」