家庭環境に恵まれない若者にとって、「奨学金」は未来を切り開くための重要な手段だ。利用者からは「大学で一生懸命学ぶ糧になった」「若いうちからお金について真剣に向き合う機会になった」といった前向きな声も聞かれる。一方で、奨学金が時に過度な負担となり、人生における負の連鎖の発端となってしまうケースも見受けられる。本記事では、奨学金制度の光と影の両面、そして「親に頼れない若者」が直面する現代社会の複雑な課題について、アクティブアンドカンパニー代表の大野順也氏が考察する。
誰にも言えなかった…月収26万円・27歳地方公務員の女性、自己破産への転落を止められなかったワケ。発端は、初めて自分で作った「銀行口座」 (※写真はイメージです/PIXTA)

大学に行きたい理由

「大学に行きたい」

 

Aさんがそう思ったのは、資格を取り、手に職をつけて早く自立したかったからだ。家庭の経済状況は厳しく、父親は働いてはいたものの生活は安定せず、家庭内でDVもあったという。怒鳴られることが日常で、精神的に追い詰められるような環境だったと、Aさんは振り返る。また、両親の金遣いは荒く、必要な生活費よりも娯楽や無駄な出費が優先される場面も多かったそうだ。

 

そんな家庭環境から一刻も早く抜け出したかったAさん。しかし、大学進学にかかる費用は自力ではどうにもならない。親に相談すると、「奨学金を借りればいい」と返された。高校在学中に自分名義の口座を開設し、申し込んだ。結果として480万円の借金を背負うことになったが、当時17歳だったAさんには、その重みを本当の意味で理解することはできなかった。

 

無事に大学へ進学し、授業と並行して公務員試験の勉強やアルバイトに励む日々。忙しくも充実していたが、家庭環境は一向に改善しなかった。むしろ、アルバイトで得た収入を家に入れるよう求められ、毎月3〜5万円を両親に渡していた。信じがたいことに、アルバイトが十分にできなかった月には、家に入れるお金を奨学金から工面することもあったという。

 

実家にいては自立できないと感じたAさんは、一人暮らしを目指して、わずかに手元に残るお金をなんとか貯めていた。

社会構造が生む“借金してでも進学”の現実

現在、大学生のおよそ3人に1人が奨学金を利用している。この背景には、日本の就職市場や教育費の高騰といった社会構造がある。企業の新卒一括採用や大卒以上を限定した採用により、若者は大学進学をほぼ必須とされ、結果として奨学金というかたちで借金を背負うしかない状況に置かれる。家庭に頼れない若者ほど、その負担はさらに重くのしかかる。

 

また、物価の上昇や保護者の収入の伸び悩みといった現実から、多くの家庭が「奨学金を借りなければ進学できない」状態にある。つまり奨学金を借りる決断は、個人の意思というより、社会構造が生んだ必然ともいえる。