家庭環境に恵まれない若者にとって、「奨学金」は未来を切り開くための重要な手段だ。利用者からは「大学で一生懸命学ぶ糧になった」「若いうちからお金について真剣に向き合う機会になった」といった前向きな声も聞かれる。一方で、奨学金が時に過度な負担となり、人生における負の連鎖の発端となってしまうケースも見受けられる。本記事では、奨学金制度の光と影の両面、そして「親に頼れない若者」が直面する現代社会の複雑な課題について、アクティブアンドカンパニー代表の大野順也氏が考察する。
誰にも言えなかった…月収26万円・27歳地方公務員の女性、自己破産への転落を止められなかったワケ。発端は、初めて自分で作った「銀行口座」 (※写真はイメージです/PIXTA)

就職、そして自己破産へ…

公務員試験に合格したAさんは、大学卒業後に地元を離れ、隣県の市役所に就職した。しかし、パワハラが蔓延する職場環境や過重労働、さらにはケースワーカーとして市民から直接浴びせられる厳しい言葉により、精神的・肉体的に限界を迎えた。病院に通うことが増え、27歳のときには退職を余儀なくされた。

 

退職当時の月収は26万円。1年半のあいだは傷病手当金を受け取ることができたものの、収入が途絶えると貯金も瞬く間に減っていった。Aさんは、奨学金の返済猶予制度を利用しようとしたが、そこでも壁にぶつかる。猶予申請をすると、連帯保証人である叔母に通知が届いてしまうのだ。そうなれば母に知られるのは時間の問題。もう二度と親に関わりたくないと家を出たAさんにとって、申請を通じて奨学金の状況が知られることすら恐怖であり、その選択肢を取ることができなかった。

 

誰にも相談できず、返済は滞り、生活費を賄うため、消費者金融に頼るように。やがて返済不能に陥り、多重債務を抱えた末に、自己破産を選ばざるを得なくなった。

 

大学での努力も、就職も、自立への挑戦も、すべてが無に帰したかのような、大きな挫折だった。

制度と現実のギャップが若者を追い詰める

このようなケースは決して珍しくない。原則として、奨学金の契約者は学生本人であるため、どのような使い道であったとしても、返済義務は本人が負うことになる。

 

一方で、もし親が奨学金を無断で使い込んでいた場合、他人の財物を扱ったことになり、「横領罪」にあたると解釈される場合も。しかし刑法上、母と子は直系血族であるため、特定の条件下では刑が免除される規定がある(刑法244条、255条)。ただし、民事上の損害賠償請求は可能とされている。また、親が子供に無断で奨学金を契約し、その資金を自ら使用していたケースでは、札幌地方裁判所が子どもに返済義務はないとする判決を下した判例もある。

 

このように、奨学金が本来の目的とは異なる形で利用される場合もある。奨学金は、経済的に困難な家庭の子どもたちにとって希望の道である一方で、制度の運用や家庭の事情によっては、「親に頼れない若者」が多重債務や自己破産に追い込まれ、人生設計が崩れてしまうことも。制度が存在していても、その救済措置にアクセスできない人も少なくない。