家庭環境に恵まれない若者にとって、「奨学金」は未来を切り開くための重要な手段だ。利用者からは「大学で一生懸命学ぶ糧になった」「若いうちからお金について真剣に向き合う機会になった」といった前向きな声も聞かれる。一方で、奨学金が時に過度な負担となり、人生における負の連鎖の発端となってしまうケースも見受けられる。本記事では、奨学金制度の光と影の両面、そして「親に頼れない若者」が直面する現代社会の複雑な課題について、アクティブアンドカンパニー代表の大野順也氏が考察する。
誰にも言えなかった…月収26万円・27歳地方公務員の女性、自己破産への転落を止められなかったワケ。発端は、初めて自分で作った「銀行口座」 (※写真はイメージです/PIXTA)

孤立する若者を生まない社会の仕組みとは

現場で若者と向き合っていると、「親を頼れず、制度にも阻まれ、自己破産する以外に選択肢がない」といった声があとを絶たない。これは決して自己責任ではない。むしろ、頼れる大人がいないこと自体が、最大のリスクになっている。「自分で奨学金を借りたのだから、自分で返すのが当然」。そう考え、限界を超えて働き、誰にも助けを求められず、破綻してしまう若者がいる。

 

本当に問うべきは、孤立するしかなかった彼らの責任ではない。“親に頼れない若者が支援制度にアクセスできない社会”の構造そのものではないだろうか。借金をして進学することが当たり前の社会であるならば、そのリスクもまた社会全体で支えるべきだ。奨学金は単なる「個人の負債」ではなく、「社会全体で未来に投資する制度」であるべきと考える。

 

そのためには、制度改革にとどまらず、大学や企業も一体となり、学生の就学・就業・返済までを支える“就学就業サイクル”を構築する必要がある。教育を受けた若者が、安心して働き、生活できる環境を整えること。これには、もはや一部の人の善意だけでは限界がある。孤立する若者を生まない仕組みを、社会全体でつくる時期が来ているのではないだろうか。

 

 

大野 順也

アクティブアンドカンパニー 代表取締役社長

奨学金バンク創設者