近年、自己理解のツールとして若者層を中心に絶大な人気を誇るMBTI(マイヤーズ・ブリッグスタイプ指標)。16種類に分類される診断結果に一喜一憂し、自分の性格や行動パターンが「言い当てられた」と感じる人も多いでしょう。しかし、この手軽なタイプ別診断は、人の成長や変化をどのように捉えているのでしょうか? 本記事では、ロバート・キーガン著『ロバート・キーガンの成人発達理論――なぜ私たちは現代社会で「生きづらさ」を抱えているのか』(英治出版)より、MBTIが前提とする「タイプ」の考え方と、心理学におけるより深い視点「構成主義的発達理論」を比較。自己理解を深め、さらに成長していくために本当に必要なものについて掘り下げていきます。
ENFP、INFJ…若者層に大流行の「MBTI診断」を過信する人が見落としていること (※写真はイメージです/PIXTA)

MBTIの仕組み:4つの指標と16のタイプ

職業及び管理者トレーニングの分野では、「性格タイプ」についてのカール・ユングの考えに間接的ながら大きな影響を受けている、マイヤーズ・ブリッグスタイプ指標が使用されている。これは、人々の経験との向き合い方を16通りに区別する、実施のしやすいテストである。

 

キャサリン・ブリッグスと娘のイザベル・ブリッグス・マイヤーズによって開発され、広く使われているこの方法では(出版社によれば、1990年の利用者は200万人)、4組の性格的分類からタイプを導き出す。被験者は自分が「内向型」と「外向型」、「感覚型」と「直観型」、「思考型」と「感情型」、「判断型」と「知覚型」のどちらにより当てはまるかを見きわめる。

 

これらの型はそれぞれ、「刺激とエネルギーを受け取ること・データを集めること・意思決定することをどのように好むか。どれくらい計画的・組織的に、または柔軟・臨機応変にものごとに対応することを好むか」をあらわしている(※1)。このテストでは、4つの指標についてそれぞれどちらか一方を選ぶだけで、受験者を16の予想される「タイプ」に分類できる。

 

「理解の仕方」に対するマイヤーズ・ブリッグスのタイプ別アプローチは結果的に、自分や同僚の性格タイプの仕組みについて理解を深めてもらうための無数のセミナーや出版物を生み出してきた。仕事の世界では、クルーガーとトゥーゼンが著した『職場におけるタイプの話』がまさにそれだ(※2)。この本では、各タイプが仕事の典型的な側面――目標設定、対立の解決、チームビルディングなど――にどのように対処するかを述べ、自分と違うタイプの人への接し方についてアドバイスをしている。たとえば、8人のエンジニアから成る作業チームと新任のCEOとがうまくいっていないケースでは、次のような助言がなされている。

 

新任のCEOのタイプは、チームの主流派のタイプと正反対だった。8人はほぼ全員が内向的/直観型/思考型/判断型なのに対し、新しいCEOは外向型/感覚型/感情型/知覚型だったのである。この事実が明らかになると、さまざまなことについて合点がいくようになった。違いが必然であることに両者が気づき、多くの怒りも消えていった。たとえば、CEOが口に出して不満を述べるのは、エンジニアがとかく製図用テーブルに向かい計算機にかじりつきたがることに対してであることが明らかになった[外向型か内向型かの違い]。

 

また、すべてに詳細な計画を求めるCEOの態度は、エンジニアには細かいことにこだわり監視の目を光らせているように感じられ、自分たちのことは放っておいてほしいと思っていた(結局、システムを知っているのはエンジニアなのだ。CEOにやり方を教えてもらう必要はなかった[直観型か感覚型かの違い])。さらには、CEOが情報をもっと集めようとして決定を先送りしがちなのは、優柔不断でリーダーらしくないとエンジニアには思われた[思考型か感情型かの違い]……などである。

 

こうした前向きな変化のなかで特に重要なのは、CEOに対して積もっていたエンジニアたちの不満が明確になり理解が深まったことと、エンジニアに対するCEOの苛立ちについてもまた同様だったことである。たとえば、外向型のCEOは、エンジニアの話を確かに聞いているが、説得しようとする傾向があり、そのせいで聞いていないように見えてしまうことを、エンジニアたちは理解できるようになった。また、判断型のエンジニアたちは具体的な方向性を求めるが、知覚型のCEOはおのずと、答えるより問うことが多い傾向があった。

 

彼らは、話をすればするほど、多くの気づきを得て、互いに本領発揮を妨げていることを特定し、それらを積極的に脇へ置けるようになった。職場で言い争うこともなくなった(※3)。