近年、自己理解のツールとして若者層を中心に絶大な人気を誇るMBTI(マイヤーズ・ブリッグスタイプ指標)。16種類に分類される診断結果に一喜一憂し、自分の性格や行動パターンが「言い当てられた」と感じる人も多いでしょう。しかし、この手軽なタイプ別診断は、人の成長や変化をどのように捉えているのでしょうか? 本記事では、ロバート・キーガン著『ロバート・キーガンの成人発達理論――なぜ私たちは現代社会で「生きづらさ」を抱えているのか』(英治出版)より、MBTIが前提とする「タイプ」の考え方と、心理学におけるより深い視点「構成主義的発達理論」を比較。自己理解を深め、さらに成長していくために本当に必要なものについて掘り下げていきます。
ENFP、INFJ…若者層に大流行の「MBTI診断」を過信する人が見落としていること (※写真はイメージです/PIXTA)

MBTIの特徴

「理解の仕方」に対する「タイプ」別アプローチには、主体―客体構造と同じく、構成主義の2つの主要な特徴がある。第1に、人は現実に「たまたま出くわす」のではなく、現実を積極的にデザインするという考えを前提にしている。クルーガーとトゥーゼンは次のような例を挙げている。

 

感覚型の人が取り込む情報は、言われた言葉や出来事の詳細のほうにより関係がある。そこでは明確な言葉と結果がカギであり、続いて想起と吟味が行われる。一方、直観型の人は、起きたことについてその内容や意味のほうをはるかに重視する。この違いにより、さまざまな「そうですね、でも」が生まれる。たとえば次のような具合だ。

 

感覚型の人:なるほど、でもあなたはこう言いましたよ……

 

直観型の人:ええ、でも私が言いたかったのはこういうことです……

 

感覚型の人:なるほど、でもそれを言いたかったのなら、そう言うべきでしたね。

 

直観型の人:ええ、でも頭のいい人にわかりきったことを言う必要はありませんから。

 

(※4)

 

第2に、「タイプ」別アプローチも、人生のさまざまな状況にわたって総体性と整合性を主張している。たとえば直観/感覚/思考/判断型の人が、職場でのさまざまな問題にある方法で取り組む場合、その人は家庭でも似た取り組み方をすると推測される。

 

だが、マイヤーズ・ブリッグスのタイプと主体―客体の理解の仕方のあいだには、重要な違いがいくつかある。まず、主体‐客体の「理解の仕方」は徐々に変わるだろうと考えられているのに対し、「タイプ」は変わらないと考えられている。マイヤーズ・ブリッグスの「タイプ」は、血液型や利き手と同様、この先もずっと今のタイプのままだとみなされているのである。

 

また、マイヤーズ・ブリッグスの「タイプ」は、つまるところ理解する方法についての単なる好みであって、主体―客体の「理解の仕方」のような、理解における能力(competencies)や力量(capacities)ではない。タイプ間の差異は、認識論的力量についての階層的な差異ではなく、認識論的スタイルについての、規範的基準のない差異なのである。

 

そのような、規範的基準のない区別の長所は、適切になされるなら、また、その区別が実証的に真実と言えるなら、タイプを意味構成することによって不適切な判断をしなくなる点だ(「思考」を好むタイプのほうが「感情」を好むタイプより本質的に優れているわけではない、など)。

 

一方、力量についての基準を設けずに理解の仕方を区別する限界は、管理者教育の分野で広く使われている方法だとしても、実のところ働く人の能力とはほとんど関係がないと思われる点だ。認識論的な視野を徐々に広げるものではないので、スタイルによるそのような区別から見えてくるカリキュラムの目的は、自分自身の好みと相手の好みを理解する力を高め、おのずとは惹かれないスタイルを意識的にうまく扱えるようになることしかないのだ。

 

フィリップ・ルイスとT・オーウェン・ジェイコブズは、リーダーシップのスタイルと力量におけるこの問題に関して構成主義的発達理論の立場をとっている。そして、スタイルに対する認識を高めたり柔軟であったりすることは仕事の効率に一役買うかもしれないが、認識論的な理解力はそれよりはるかに大きな役目を果たす、と述べている。

 

参考

※1 

O. Kraeger and J. M. Thuesen, Type Talk at Work(New York: Delacorte Press, 1992), p. 94。

 

以下も参照。

B. Myers and P. B. Myers, Gifts Differing (Palo Alto: Consulting Psychologists Press, 1980)。

 

※2 Kraeger and Thuesen, Type Talk at Work.

 

※3 同上。pp.144-147

 

※4 同上。p.136

 

 

ロバート・キーガン

ハーバード大学教育学大学院

名誉教授