定年を迎えた瞬間から、ある意味、人は社会の外側に立たされます。長年培った肩書や人間関係は、現役を離れたその日から意味を持たなくなることも。そして、気づけば家にも、街にも、自分の「居場所」が見つからない――そんな声は決して少なくありません。
この家に俺の居場所なんてない…「年金月21万円」「退職金3,800万円」65歳の元エリート金融マン、透明人間と化す老後。「ファミレス」の片隅から聞こえてきた嘲笑に涙

単身赴任から帰ってきた元・エリートの居場所

金融マンとして活躍していた佐々木浩介さん(仮名・65歳)。30歳で結婚し、一男一女をもうけましたが、全国転勤のある仕事。落ち着いて子育てがしたいという妻の意向もあり、40歳で東京で家を購入したあとは、佐々木さんは基本的に単身赴任で全国を転々することに。60歳で定年を迎えたとき、当時の勤務先だった福岡の関連会社から重役待遇で迎え入れられ、65歳まで現役で働きました。

 

「私の言葉ひとつで数億円とか、数十億円の融資が決まったこともあった」と、今なお懐かしむように語ります。引退後に受け取るようになった年金は月21万円。定年時に受け取った退職金は3,800万円あります。現役引退後の生活においてお金の心配はなく、悠々自適な日々を過ごすことができる――しかし佐々木さんは、自由過ぎて何をしたらいいのかわからない日々を過ごしているといいます。

 

「一日のほとんどを、駅前のファミレスで過ごしています」と佐々木さん。朝、ファミレスでモーニングをいただき、自宅に帰るのは日が暮れた18時、19時あたり。そして21時には就寝をするのだとか。

 

そもそも仕事を辞めて東京にある自宅に戻ってきたら、家族との穏やかな生活を期待していました。たまに妻と旅行に出かけ、たまに孫が遊びに来て――そんなどこにでもある日常です。しかし現実は大きく異なりました。

 

朝起きると、妻は無言で弁当を詰め、パートに出かけていきます。ひとりポツンと取り残された自宅は、これまで1年に何回か帰ってきては1泊、長くて2泊程度するだけ。そのため、どこか「他人の家」という感覚があります。子どもたちも忙しくしていて、遊びにやってくる、ということもほとんどありません。

 

「この家にはどこにも俺の居場所はない――」

 

1人で自宅にいると、そんな感覚に襲われ、苦しくなる。だから毎朝ファミレスに出かけ、夜まで帰らないのだといいます。

 

「まるで私はここ(自宅)にいないことになっている。透明人間みたいなもんですよ」