立地、設備、費用…条件を比較して選んだはずの「老人ホーム」。それでも、入居後に「想定外の現実」に直面する高齢者は少なくありません。施設選びにおいて見落とされがちな「本質」とは何なのでしょうか?
駅チカで新築で安かったから…〈年金月15万円〉〈貯金2,200万円〉79歳母、「老人ホーム」即決も、3ヵ月後に「助けて」とSOS。51歳娘が駆けつけて絶句 (※写真はイメージです/PIXTA)

駅チカ・新築の老人ホームの現実

順調に見えた老人ホームでの新生活。しかし、入居からわずか3ヵ月後、長女の伊藤真由美さん(旧姓仮名・51歳)のもとに届いたのは、和子さん本人からの「助けて!」という緊急連絡でした。

 

急いで施設に駆けつけた真由美さんが目にしたのは、顔色の冴えない和子さんの姿。部屋は清潔に保たれていたものの、和子さんの口から出てきたのは、「ここは、想像していたのと違ったの……」という言葉でした。聞けば、スタッフの対応は悪くはないものの、人数が圧倒的に足りておらず、サービスがまったく行き届いていないのだとか。

 

「どこかでナースコールが鳴り続けていることも日常茶飯事。でも誰も来ないの。だから私が呼びにいってあげることもあったり。探し回って、探し回って、やっと見つけるけど、『ごめんなさい、今すぐにはいけないんです』と謝られたりして。スタッフのみなさんも頑張っているから、余計辛くて」

 

公益財団法人介護労働安定センター『令和5年度 介護労働実態調査』によると、人手不足感を訴える事業は6割強に及びます。また介護業界では団塊の世代が75歳以上になる、今年2025年には、介護職員が約32万人不足すると予測され、さらに2040年には約69万人が不足すると見込まれています。

 

入居当日、新生活に目を輝かせていた和子さんの姿を思い出し、そのギャップに思わず言葉を失くす真由美さん。新しい老人ホーム。外観は素晴らしいものでしたが、人手不足が叫ばれている介護業界、思ったようにスタッフが集まっておらず、日々、戦場のような有様――それが現実のようです。

 

退居を考えたいが、自宅は売却してしまった。しばらく置いてくれないか……弱々しい言葉で真由美さんにお願いする和子さん。もちろん、そんな姿の母をほおっておくことはできず、一緒に真由美さんの自宅に帰ることにしました。

 

子どもたちはみんな優しい――それでも、迷惑はかけたくない。いま新しい入居先を探しています。

 

「駅チカ新築だからといって、快適かといえばそうではないのですね。やはり、老人ホームは人がいてこそ、ですね」

 

今は古くても、実績とよい口コミのあるところを中心に探しているといいます。

 

[参考資料]

公益財団法人介護労働安定センター『令和5年度 介護労働実態調査』