立地、設備、費用…条件を比較して選んだはずの「老人ホーム」。それでも、入居後に「想定外の現実」に直面する高齢者は少なくありません。施設選びにおいて見落とされがちな「本質」とは何なのでしょうか?
駅チカで新築で安かったから…〈年金月15万円〉〈貯金2,200万円〉79歳母、「老人ホーム」即決も、3ヵ月後に「助けて」とSOS。51歳娘が駆けつけて絶句 (※写真はイメージです/PIXTA)

家族には迷惑をかけたくない…自宅売却&老人ホーム入居を決断

東京都内でひとり暮らしをしていた伊藤和子さん(仮名・79歳)は、退職後も身の回りのことは自分でこなせるほど元気な高齢者でした。年金は月15万円、貯金は2,200万円ほどあり、経済的にも大きな不安はありませんでした。しかし住んでいる家を売り、老人ホームに入居する決断をします。

 

「まだ元気だけど、80歳を前に最期について考えるの」

 

家を残したら――子どもは3人いるから面倒なことになるかもしれない。なら、今のうちに売ったほうが子どもたちのため。介護が必要になったら――きっと子どもたちは面倒をみてくれる。でも、迷惑はかけたくない。

 

さまざまに頭を巡らせての決断でした。まず考えるべきは、入居する老人ホーム。その条件は――

 

・同じように元気な同年代が多いほうがいい

・でも、将来のことを考えて、介護・医療体制は充実していてほしい

・家族が来やすいように、便利な立地のところがいい

・清潔感のあるところがいい

・毎日の食事は美味しくいただきたい

・もちろん、費用も重視。安いほうが嬉しい

 

色々と条件を挙げていくと、「そんなホーム、あるのかしら」と自分でもおかしくて笑ってしまうほど。そう語っていた和子さんは、あるとき新聞折り込みで見つけた介護付き有料老人ホームのチラシに目をとめます。「駅徒歩5分」「新築」「自立入居可」「看護師常駐」「食事は一流シェフが監修」……など、好条件が並ぶその施設は、パンフレットの写真も明るく、快適そうな生活が想像できるものでした。

 

「ここ、良さそう」と見学へ。新築かつ、まるでホテルのような佇まい。入居一時金300万円、月額利用料18万円という価格もかなりのお得感。和子さん、即決でした。入居の契約を済ませたあとは自宅の売却。以前から付き合いのあった不動産会社に相談したところ、スムーズに売却先も決まりました。

 

何の心残りなく、老人ホームに入居。ピカピカのホームでの生活は想像通り。何かと慌ただしく過ごしていた数ヵ月間を振り返り、和子さん、ホッとひと息ついた瞬間でした。