
「ようやく手に入れたマイホーム」と「父の介護生活」の両立に追い詰められて
都心のIT企業に勤めるサラリーマンである斉藤達也さん(仮名・35歳)。年収は約800万円。月収は50万円程度あり、同年代の平均と比べれば上位層に分類されます。 そんな達也さんは念願のマンションを購入。3LDKの新築マンションで、価格は約7,500万円。30年ローンを組み、月々の返済は15万円。家族とともに、これからの人生を一歩ずつ築いていこうと意気込んでいた矢先のことでした。
「お父さんが倒れた」
その知らせが届いたのは、生活がようやく落ち着きはじめた頃。達也さんの父・勝利さん(仮名・80歳)は、地元で一人暮らしをしていたところ、脳梗塞で倒れました。幸い命は助かりましたが、片麻痺が残り、日常生活には支援が必要となりました。
「数年前から、父とは万一のときのことを話していました。父は母との思い出が詰まった自宅で最期を迎えられたら本望といっていました」
母が亡くなったのは、20年ほど前のこと。達也さんはまだ中学生でした。勝利さんは不慣れな家事も一手に引き受け、達也さんを大学まで進学させてくれました。
「私は父が40代と遅くに生まれた子どもだったので――両親には本当に大切に育てられたと思います。しかし母には何も親孝行らしいことはできなかった。だから父には精いっぱいの親孝行がしたいんです」
勝利さんの想いを最大限尊重したいと考え、達也さんは施設ではなく、在宅介護という道を選びました。平日は24時間対応の訪問介護サービスを利用、週末は欠かさず地元に戻り、勝利さんの身の回りの世話を行う――そんな介護生活が始まりました。しかし、その負担は想像以上でした。
まずは経済的な負担。勝利さんの年金は月10万円。それだけで日々の生活費と介護費用は賄うことはできず、はみ出た費用は達也さんが負担しました。さらに肉体的な負担は、さらに大きなものでした。
会社のフレックス制度やリモートワークを最大限に活用し、仕事と介護の両立を目指すも、業務への支障は避けられず、収入は月8万円ほどダウン。「頑張って買ったマンションのローンが、本当に苦しい」と達也さんは漏らします。