退職金や貯金が潤沢にあったとしても、それだけでは「老後は安心」とは言い切れない現実があります。たとえば夫婦間の関係性や価値観のズレは、定年を機に一気に表面化することも。長年築いた家庭のかたちが、思いもよらぬ形で揺らぐことも珍しくないのです。
「退職金3,500万円」「貯金5,000万円」60歳の大企業部長、定年退職式を終えて帰宅も「上機嫌の妻」に違和感…ある夜に起きた惨劇に悲鳴「う、嘘だろ!?」

想像以上…自由すぎる「まさかの老後」

株式会社Clamppyが熟年離婚を経験した全国1,335人の男女を対象に行った調査によると、熟年離婚に対して35.3%が「デメリットはない」と回答。また熟年離婚のメリットとして、「金銭面で楽になった」(23.8%)、「親戚付き合いがなくなった」(22.3%)、「仮面夫婦を演じる必要がなくなった」(21.3%)といった声が聞かれました。

 

男女別にみると、「熟年離婚にデメリットはない」は、男性27.2%に対して、女性は43.2%。圧倒的に女性のほうが「離婚してよかった!」と感じています。またメリットとしては、男性は「金銭面で楽になった」が30.1%と最も多く、女性は「仮面夫婦を演じる必要がなくなった」が最多で23.8%。もちろんお互いが仮面夫婦と感じているケースもあれば、女性だけがそう思っていた、というケースもあるでしょう。

 

森下さんの場合は後者。大企業の部長というポジションで奮闘する夫を献身的に支える妻、と周りはみていたでしょう。夫・浩さんも思っていました。しかし妻・幸子さんは、まったく違う方向を見ていたわけです。

 

「定年退職して、やっと自由になれると思っていた。でも現実は、そうではなかった」

 

近年、定年退職を機に「熟年離婚」に至るケースが増えています。厚生労働省によると、離婚件数全体のうち、婚姻期間20年以上の夫婦の離婚は全体の約21%。特に60代の離婚はここ10年で増加基調にあります。

 

離婚は不可避と考え、財産分与について話し合いを進めていく浩さん。ふと「いつから離婚と考えていたんだろう」と疑問に思い、幸子さんに問いかけたことがあります。すると「かれこれ10年くらい前かな」とあっけらかんと話します。

 

「あなたの定年後を想像したの。ほとんど無言のあなたの横で、お茶をすする――そんな画しか浮かばない。もうあなたと一緒にいるのは無理だなと思った。でもきちんと退職金含めて財産分与してもらわないと、それまであなたを支えてきた自分を否定することになるでしょ」

 

用意周到に準備された離婚話。浩さんも驚くほど、スムーズに進んでいったといいます。

 

「定年退職の日、今日から自由だと喜びに浸ったけど……まさかこんなにも自由を謳歌することになるとは思ってもみませんでしたね」

 

[参考資料]

株式会社Clamppy『熟年離婚後に孤独を感じる女性はわずか5%!女性は寂しさよりも解放感?』

厚生労働省『人口動態』