いつかは訪れる、親との別れ。経済的事情、葬儀の形式、遺族の思い……限られた選択肢のなかで下す決断は、誰もが最善を尽くしたもの。しかし後になって「正しかったのか」と自らに問い続けることも珍しいことではありません。
ちゃんと葬儀をしてあげたらよかった…「年金月5万円」72歳父が実家の市営団地で「孤独死」してから5年。55歳長女が後悔を引きずる理由 (※写真はイメージです/PIXTA)

火葬と納骨だけをして「葬儀はしない」という選択

選択肢を調べ始めると、「一般葬」「家族葬」「一日葬」「直葬」など様々な形式があることを知りました。費用もそれぞれ大きく異なります。経済的に厳しい状況で、数十万円、あるいは百万円以上かかるような葬儀は考えられませんでした。そんななか、目に留まったのが「直葬」という形式でした。通夜や告別式を行わず、火葬のみを行うシンプルな葬儀です。費用も他の形式に比べて大幅に抑えられるとのこと。これが、今の沙織さんにとって唯一現実的な選択肢のように思えました。

 

「ごめんね、お父さん、お葬式をあげてあげられなくて……」

 

胸の中で父に謝りながら、沙織さんは直葬を選びました。葬儀社に依頼し、最低限の手続きだけ行います。火葬し、そして先祖代々の墓に納骨。総額10万円程度で済ませることができました。

 

こうして、父・勝さんが亡くなってから5年が経ちました。沙織さんは今も、あの時の決断を後悔しています。「きちんとした葬儀をしてあげたらよかった……」。そう思うたび、心が締め付けられます。それは、豪華な葬儀をして見栄を張りたかった、ということではありません。

 

ただ、父のために、せめてもの手厚い見送りをしてあげたかったという思い。通夜や告別式で、父と縁のあった人たちと集まり、父の思い出を語り合い、皆で父を見送ってあげたかったという思い。それができなかったことが、今も後悔として残っているのです。

 

株式会社鎌倉新書『第6回お葬式に関する全国調査(2024年)』によると、行った葬儀のスタイルで最も多かったのが「家族葬」(50.0%)。「一般葬」(30.1%)、「一日葬」(10.2%)、「直葬・火葬式」(9.6%)と続きます。

 

平均額は、「家族葬」が105.7万円、「一般葬」が161.3万円、「一日葬」が87.5万円、「直葬・火葬式」が42.8万円でした。

 

また「葬儀に対して後悔していることはない」と答えた人は、「家族葬」「一般葬」「一日葬」は5~6割に達したのに対し、「直葬・火葬式」は38.7%と、満足度は低い方法であることがわかりました。

 

経済的な理由で直葬を選ぶ人は少なくありません。遺族に負担をかけたくないと、あえて「葬儀はしなくてもいい」と遺す人もいるでしょう。ただ沙織さんのように、「きちんと送ってあげたかった」と後悔を口にする人も少なくありません。

 

「葬儀は遺されるものの単なる自己満足なのかもしれない。ただこんなにも後悔が残るなら、生活が苦しいを言い訳にせず、葬儀をしておけばよかったです」

 

葬儀の形式に正解はありませんが、「きちんと見送る」とはどういうことなのか、お金の側面も含めて事前に考えておく必要があるでしょう。

 

[参考資料]

株式会社鎌倉新書『第6回お葬式に関する全国調査(2024年)』