
満員電車にもまれた40年…人混みとは無縁の世界への憧れ
長年勤め上げた会社を定年退職し、これからの人生をどう過ごすか。多くの夫婦にとって、それは共通の大きなテーマです。セカンドライフの選択肢のひとつとして人気を集めているのが、地方への移住。都会の喧騒を離れ、自然豊かな環境でゆったりと暮らす――そんな理想を抱く方も少なくないようです。田中修さん(仮名・60歳)、智子さん(仮名・60歳)夫婦もそう。
「高校から、朝の満員電車を経験してきました。40年以上ですね。だから仕事を引退したら、満員電車とは無縁の世界で暮らしたい――そんな夢を抱いてきました。それは東京生まれ、東京育ちの妻との共通の憧れだったのです」
ただ、働いていると夢を現実に変えるタイミングはなかなかつかめないもの。そこでベストだったのが定年でした。夫婦共働きの田中さん夫婦。ともに60歳が定年でしたが、定年を迎える同期の9割強が再雇用を選択していたといいます。そんななか、ふたりは「定年退職」を選択し、第二の人生を決断したのです。
「きっと再雇用されたら、65歳くらいまで働くのでしょうね。何か新しいことを始めるのに、この5年は大きいと感じました。このタイミングを逃したら、夢は夢のまま終わると」
こうして定年退職を機に、静岡県に移住。セミナーを受講した際、比較的温暖な気候で、東京からのアクセスもよいところがポイントでした。移住に際し、町から100万円の支援金も。移住後はすぐに自治会に入会し、地域の行事には欠かさず出席するようにしました。
「農業は初めてでしたし、土地勘のない私たちが生きていくのに、近所の人とのコミュニケーションなしでは難しいと感じていました」
地域の人にも恵まれ、移住から3年。今では可能な限り、自給自足の生活を送っています。
「採れたものをお裾分けしたり、その反対にお裾分けをいただいたり。食べ物を買うことはほとんどないですね」