
突然の父の訃報と、突きつけられた現実
野村沙織さん(仮名・当時50歳)は、今でもあの日の電話を受けたときのことを覚えているといいます。それは、実家で暮らす父が亡くなったことを知らせるものでした。父・勝さん(仮名・享年72歳)は、結婚以来、50年近くも住んでいた市営団地で息を引き取っているところを発見されたといいます。
母(勝さんの妻)が亡くなってから10年近く、この市営団地でひとり暮らし。年金は月5万円程度で、わずかな貯蓄を取り崩しながら暮らしていました。沙織さんも余裕があったわけではありませんが、連絡するごとに「ちゃんと生活できている? 困っていない?」と気にかけていたといいます。そんな娘の呼びかけに対して、「大丈夫、心配するな」というのがお決まりのパターンでした。
警察による検死が終わったとき、急いで駆けつけた沙織さんが到着。不審なところはなく、病死という判断でした。いわゆる孤独死。発見される3日前に誰にも看取られることなく、静かに息を引き取っていたようです。
「どれほど心細かっただろうか。誰もそばにいなかったのかと思うと胸が締め付けられます」
遺体はいったん、実家の市営団地に運ばれました。しかし沙織さんの目の前に立ちはだかったのは、その後の手続きや手配でした。一人っ子である沙織さんがすべてを担わなければなりません。しかし、何から手をつけてよいのか分かりません。混乱する頭で考えたのは、まずはお金のことでした。勝さんの遺品を整理しても、預貯金はほとんどありませんでした。だからといって、自分の預貯金から取り崩して葬儀を行うことに抵抗感がありました。
「葬式をして、遺された私の生活が大変になるとしたら本末転倒」
親戚に連絡を取り、今後のことについて相談。皆、勝さんの死を悼んでくれましたが、経済的な援助について言及する者はいませんでした。それぞれに生活がありますし、当然といえば当然です。
「葬儀、どうしよう……」