人生100年時代。どのように老後の暮らしを安定させ、豊かに過ごすかは、多くの人にとって課題です。そのようななか、「年金の繰下げ受給」を選択する人が徐々に増加中。しかし、受取額が増えて喜びの声をあげる人がいる一方で、後悔を口にする人も少なくありません。
年金の繰下げで人生が台無しです…「年金月25万円」に増額も72歳元会社員が「65歳からもらうべきだった」と悔やむ「本当の理由」 (※写真はイメージです/PIXTA)

年金の増額分の使い道

しかし、年金生活をスタートさせてから2年、今は「本当に自分の選択が正解だったのか――」と自問することも多いといいます。その理由が、妻の佳子さんの病気。定年退職後、体調を崩し、検査入院をしたところ、がんと診断され、今なお闘病生活を送っています。

 

「年金が増えたからお金の心配なく治療が行えている――繰下げ受給のメリットは感じています。しかし……」

 

そもそも繰下げ受給を選択したのは「豊かな老後を送るため」。しかし、現実は妻の治療費に消えている。

 

「私が65歳になった時点で、妻も仕事をやめていたら……今よりも経済的には不安定かもしれないけれど、たまに旅行に行ったり、美味しいものを食べたり。そんな生活を送れたかもしれない。そう考えると、年金は65歳から受け取るべきだった、年金の繰下げを選んだせいで人生を台無しにしてしまった。そう悔やんでしまうのです」

 

もしもを語ったところでどうにもならない。仮に65歳から受け取っていたとしても、それが正解かもわからない。伊藤さん、答えのない迷路に迷い込んだまま、妻を看病する日々を送っています。

 

伊藤さんのように「年金の繰下げ受給」を悔やむ理由のうち、最も多く聞かれるのが「早死にした場合の損失感」。年金を繰下げると受給額は増えますが、早くなくなり受給期間が短くなると、結果的に受給総額が少なくなることから、「損をした」と感じる人がいます。毎月の受取額ではなく、総受給額で損得を考える人は、受給開始時期を慎重に決めたほうがいいでしょう。

 

また繰下げにより年金受取額が増えると、それに応じて所得税、住民税、国民健康保険料、介護保険料などが増えますが、このことをネガティブに捉える人も。もちろん、手取り額そのものは増えますが、給与のように「思ったよりも増えないな」という感覚は年金でも健在。年金増による税金・保険料の負担増を受け入れることができないなら、繰下げ受給を避けたほうが身のためです。

 

ほかにも、「加給年金が受け取れなくなる」在職老齢年金で減額された額が増額されない」「遺族年金が増額されない」といったルールをマイナスに捉える人も。

 

年金の受取額が増えるというプラスの面だけでなく、マイナスの面もしっかりと把握したうえで、自分にとってどのような受け取り方が適しているのか、しっかりと検討してから決めることが大切です。

 

[参考資料]

公益財団法人生命保険文化センター『2022年 生活保障に関する調査』