
収入増に惹かれて決めた「繰下げ」
元会社員の伊藤悟さん(仮名・72歳)が会社を定年退職したのは65歳のとき。40年強に渡る会社員人生にピリオドを打ち、これから年金を受け取りながらセカンドライフ――これが一般的だとするなら、伊藤さんは別の道を歩みました。
5歳年下の妻・佳子さんとはずっと共働き。定年も伊藤さんと同じように65歳でした。佳子さんの月収は手取りで23万円ほどでしたが、夫婦2人で暮らすには十分。そこで悟さんが選んだのは、年金の繰下げ受給。
老齢年金は原則65歳受取開始となりますが、66~75歳(昭和27年4月1日以前生まれの場合は上限年齢70歳)の間で繰り下げて増額した年金を受け取ることができます。増額は1ヵ月遅らせるごとに0.7%。70歳まで受給開始を遅らせると42.0%増額、75歳まで遅らせると84.0%。収入を得る手段が限られる高齢者にとって、なんとも魅力的な話です。
しかも毎月誕生月に送られてくる「ねんきん定期便」には、わざわざ繰下げ受給すると年金が増えることが強調し、書かれています。伊藤さんも「もし年金を受け取らなくても暮らしていけるなら、繰下げを選択したほうが得だといえそうだ」と考えて、何の躊躇もなく繰下げ受給を選んだといいます。
「年金の受取額が増えたら、豊かな毎日が送れると思いました」
こうして65歳から受け取れば、月18万円程度だった年金は70まで繰り下げて42%増。月25万円強、手取りで月20万円もらえるように。さらに妻の年金月16万円を合わせると、月41万円、手取りで月34万円ほどだといいます。
公益財団法人生命保険文化センター『2022年 生活保障に関する調査』によると、高齢者夫婦2人の老後の最低日常生活費は平均月23.2万円、ゆとりある老後生活費は平均月37.9万円。伊藤さんは、この調査ほどではないにしろ、「ゆとりある老後」に一歩近づき、「お金の心配から解放された!」と喜んでいたといいます。