夢に見たマイホームを手に入れたものの、環境の変化や予期せぬ出来事によって、その返済が過度な負担となるケースは決して少なくありません。住宅ローン破綻に陥る人は皆「まさか自分が……」そう思うようです。実情をみていきます。
少しでいい。働いてくれないか…湾岸タワマンに住まう年収1,300万円・鉄壁のプライドの持ち主「45歳エリート商社マン」が年下妻に懇願した理由

収入激減のワケ

そんななか、突然の不運が中野さんを襲います。所属する総合商社の花形部署で、海外プロジェクトの失敗が表面化。中野さん自身が直接の責任者ではなかったものの、チームリーダーとして責任を問われ、部署異動を命じられます。

 

新しい部署は本社から離れた地方拠点での管理職ポジション。年収は大幅に下がり、昇進のレールからも外れてしまいます。さらに、会社の業績悪化に伴い、退職金が当初想定していた額より1,000万円以上減る可能性が浮上。本社に戻り、かつての出世コースに復帰することは、年齢的にもはや見込みがありません。

 

家計を見直した中野さんは、愕然とします。いまある貯蓄は娘の医学部学費と仕送りでほぼ底をつき、老後の資金はほぼゼロ。住宅ローンの残債はまだ4,500万円以上あり、35年ローンをこのまま続けるには、現在の年収では厳しいことが明らかです。繰上げ返済の計画も、貯蓄が尽きたいま、実現不可能に。老後は、退職金が減額された場合、かなり厳しい生活が待っているとすぐにわかりました。

 

中野さんは、プライドを抑えつつ、妻に初めて本音を打ち明けます。「このままじゃ、ローンの返済が厳しい。少しでいいから、働いてくれないか」と。妻は驚きます。結婚以来、中野さんの強い希望で専業主婦を続けてきた背景には、彼の異常なほどの嫉妬心がありました。中野さんは、美佐子さんが外で働き、ほかの男性と接することを極端に嫌がり、「俺の稼ぎで十分だ」と繰り返してきたのです。そのため、美佐子さんはパートやアルバイトの提案を何度も我慢してきました。

 

しかし、今回は状況が違います。中野さんの声には、かつての自信や威厳はなく、切実さが滲んでいました。妻には長年の専業主婦生活で、仕事の経験は乏しく、自信もありません。それでも、家族の将来を考え、「私にできることがあれば」と答えます。彼女はパートを始め、月10万円程度の収入を得ることに。これにより、住宅ローンの返済に多少の余裕が生まれますが、根本的な解決には程遠いものがあります。

 

中野さんは、自分のプライドと嫉妬心が招いた結果に苦しみながらも、妻の働きぶりに感謝しはじめます。しかし、老後の不安は消えず、中野さんは「年収に対して大きすぎる借金を抱えた人」となってしまいました。今後、節約と資産運用の勉強を始めることを決意。娘の学費を支えつつ、厳しい現実と向き合う日々が始まります。