人生には、時に予期せぬ困難が立ちはだかります。長年温めてきた夢や計画も、病や環境の変化によって、一瞬にして消え去るかのように思えるかもしれません。そんな絶望の淵に立たされたとき、どうすれば希望を見出せるでしょうか? 本記事では、保坂隆氏の著書『精神科医が教える 50代からの心おだやかな暮らし方』(有隣堂)より、幸せな老後を叶えるためのヒントを深掘りしていきます。
「定年後、夫婦で世界旅行」の夢が絶望へ…50代夫が糖尿病の合併症で人工透析に→60代現在、「最高の復讐です」と笑うワケ (※写真はイメージです/PIXTA)

共働き夫婦の定年後の夢を叶えるために

歳を重ねた人間の強みである「打たれ強さ」について、私の古くからの知り合いの編集者の話を紹介していきましょう。ずっとフリーランスとして活躍し続けてきた女性ですが、50代を目前に、人生はしだいに困難を増していきます。

 

彼女の夫は新聞社勤務の記者で、30代で海外特派員としてワシントンに派遣されるなど華やかなキャリアを誇っていました。二人の子どもを持つ共働きだったので、とにかくいつも忙しかったものの、好きなことを仕事にできる喜びで充実した人生を歩んでいました。

 

彼女の夢の一つは、定年を迎えたら夫と2人で好きな海外旅行を、それも滞在型の旅行をして、それを記事にして発信していくこと。家族・趣味・仕事―すべての大好きなことを叶えるプランでした。しかし、人生はなかなかうまくいきません。ちょうど定年まで5年を切るころに夫の糖尿病の合併症がひどくなり、人工透析を受けるようになってしまったのです。

 

でも、2人はあきらめません。状況の悪化はじっと耐えて受け止め、希望は失わず、「夢を叶える方法はきっとある」と信じて医師や旅行会社に相談し、辛抱強く方法を探りあてていったのです。

 

人工透析は事前にきちんと準備、予約しておけば、たいていの国・都市で対応してくれるシステムが整っています。一日おきに病院で数時間過ごさなければならないため、どうしても滞在日数は長くなります。ですが、最初から「滞在型の旅行」を希望していたので、それは大きな障害にはなりませんでした。

 

一方で費用の問題もありましたが、そこは透析費を含め、旅行にかかる費用を最優先にし、ほかの面はできるだけ倹約するという現地でのライフスタイルを確立していきます。その際に支えになったのが、「優雅な生活が最高の復讐である」という言葉だったそうです。これはスペインのことわざで、厳しい運命が襲ってきても、そのなかで目いっぱい楽しんで生きる。そうすれば、厳しい運命を笑って吹き飛ばす結果になり、運命に対する最高の復讐になるというわけです。