(※写真はイメージです/PIXTA)
母と妻の板挟み…「自宅に逃げ場がない」という地獄
重々しい空気が充満するマイホーム。ふと、母に老人ホーム等に入居してもらうという選択肢が頭をよぎりますが、すぐに「むりむりむりっ」と打ち消しました。母の年金は月14万円程度。貯蓄は心許ない程度。今は空き家になっている田舎の実家を売却したとしても、二束三文にしかならないことは明らか。そして母はまだ72歳。平均寿命を考えるならば、入居期間は10年以上になるでしょう。加藤さんも相当な額を負担しなければ、母を老人ホームに預けることは現実的ではないのです。
もはや自宅に逃げ場がないなか、ある日の仕事からの帰り道、加藤さんは気づけば喫茶店に足が向いていたといいます。家に帰れば、母と妻の顔色を気にしながら、静かな火種のなかで息をひそめるような時間が待っています。
「家に帰りたくない」と思い始めたのは、このころからでした。仕事が終わっても真っすぐ家に帰らず、カフェやネットカフェで時間を潰す。週末は「在宅の時間が長い分、空気が重くなる」といい、わざと仕事を持ち帰ったふりをして外出する日も多くなったといいます。
子育てが一段落し、ようやく夫婦の時間が持てると思っていた直美さんにとっても、「義母との同居」は想定外だったはずです。心のなかでは嫌と思いながらも、同意するしか選択肢はなかったでしょう。加藤さんも、母を助けたい一心で始めた同居が、ここまで精神的に重くのしかかるとは予想していませんでした。
「母も妻も、誰も悪くない。だからこそ難しい」と、加藤さんは語ります。帰宅の恐怖と闘いつつ、家庭内での役割分担や気持ちのすり合わせを少しずつ模索している最中だといいます。
高齢の親を抱える世帯は今後ますます増えていくと見られています。2024年の高齢者人口(65歳以上)は3,625万人で、総人口に占める割合は29.3%。団塊の世代が80代に差しかかる2030年代には、介護・同居・施設問題は今以上に多くの家庭の課題となると考えられます。
[参考資料]
株式会社しんげん/SHUFUFU『【義両親の苦手なところ】2位は「常識やデリカシーがない」1位は?同居しない事が関係性を保つコツか』
総務省『人口推計 2024年(令和6年)10月1日現在』