(※写真はイメージです/PIXTA)
「孤独死リスク」が立ちはだかる入居審査の壁
一見、森田さんのような年金受給者で、一定の資産を持っていれば、家を借りるのに問題はなさそうに思えます。しかし、現在の賃貸住宅市場では、年齢そのものが「リスク」として見られてしまうのが実情です。
高齢者の賃貸入居で最も大きな障壁となるのが「孤独死リスク」です。高齢単身者が室内で亡くなり、長期間発見されないケースが後を絶たないことから、物件オーナーや不動産会社は高齢者の入居に慎重になる――。また、認知症や身体機能の低下による事故リスクも懸念されています。家賃の支払い能力だけでなく、入居後のトラブル可能性が重視される傾向が強まり、審査基準が年齢によって大きく変わるのです。
森田さんが審査に落ちたのも、こうしたリスク要因に加え、緊急連絡先や保証人の不在が影響していた可能性があります。「兄弟は他界し、子どももいない。身内はほとんどいません」と森田さん。保証会社の利用を申し出ても、年齢的に受け入れを拒否されたケースもあったそうです。
株式会社R65が行った調査では高齢者の入居を受け入れていない賃貸オーナーは41.8%に達しました。一方で積極的に受け入れている賃貸オーナーは19.0%に過ぎません。孤立しがちな高齢者にとって、「家を借りる」という行為そのものが、実にハードルの高いものなのです。
なかなか次の住まいが決まらず、一時はサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)などの介護施設への入所も検討したいといいます。しかし、入居に際して一定の収入や保証人が求められるケースも多く、「誰でも入れるわけではない」というのが実情です。また森田さん自身も「自由度が制限される」と感じ、積極的にはなれなかったといいます。
現役時代は、平均をはるかに超える給与を得ていた自負がある。贅沢を好まないので、今なお退職金ほか、十分すぎる貯蓄もある。高齢者のなかでも、自身は経済的に恵まれている部類に入っている――そんなエリート意識があったといいます。しかしそんなプライドもズタズタになった森田さん。範囲を広げて探したところ、退去期限ぎりぎりで次の住まいが決まったそうです。都心からは外れ、馴染み深い街からも離れることになりました。
家を借りられない高齢者――政府もようやく重い腰を上げつつあり、2023年度からは「高齢者住宅セーフティネット制度」の普及を進めています。これは住宅確保要配慮者(高齢者や障害者など)の入居を拒まない賃貸住宅の情報を集約し、自治体と連携してマッチングを行う仕組み。しかし、現場の不動産会社やオーナーの意識が変わらなければ、制度があっても利用は進みにくいのが現状です。
[参考資料]