高齢者の住まいとして定着しつつある「老人ホーム」。さまざまなタイプの施設があるので、しっかりと見学し、自身にしっかりと合っているか、見極めることが大切です。しかし、どうしても見学ではわからないことがあり、入居後に「こんなはずではなかった」ということも珍しいことではありません。
う、嘘だろ…年金月20万円・88歳の父が「高級老人ホーム」から大脱走も、3キロ先のスーパー前で確保。まさかの「逃走理由」に家族全員が唖然 (※写真はイメージです/PIXTA)

老人ホームではありがち…入居前と入居後の想定外

管理の行き届いた高級施設から脱走するとは――「うっ、嘘だろ?」と長男を始め、誰もが驚く事態。しかも、捜索の結果、実さんは徒歩で3キロ先のスーパーの前で、警察により無事に保護されました。幸い、ケガもなく、体調にも問題はなかったものの「なぜこんなことを?」と家族はみな疑問を口にしました。

 

そんな家族に対して、田中さんは脱走理由をひと言。

 

「納豆が美味しくないんだ」

 

誰もが「はぁ!?」と首を傾げ、次の言葉が見当たりません。一方でまさかの理由を知っているのか、職員たちは思わず苦笑。帰宅後に本人から告げられたのは、やはり「納豆がまずいんだよ、あんなもん食えるかっての」という唖然とした理由でした。

 

田中さん、「一番好きな食べ物は納豆」と言い切るほどの納豆好き。ひとり暮らしをしていたころは、わざわざお取り寄せをすることも。しかし、老人ホームに入居してから朝食で必ず出る納豆がどうしても我慢ならなかったといいます。

 

どんなスーパーでも売っている3パック100円以下で手に入る手軽なもの。しかし何とかお気に入りの納豆が食べられないものかと職員に訴えたものの、「対応は……難しいですね」といわれたことが、実さんのなかで積もり積もっていたようです。

 

そんなときに「お父さんがよく食べていた納豆、ここ(老人ホーム)に来る途中のスーパーで見かけた」と面会に来たときに長女がポロリ。「今度来るときに買ってきてあげるよ」といってくれたものの、待ちきれず今回の大脱走につながったのでした。

 

ただ話をさらに聞いていくと、脱走理由はそれだけではなかったようです。

 

「将棋仲間のXXさんが、毎回勝つと嫌味をいってきて、気分が悪かった」と実さん。人間関係に悩むことがあるのは、老人ホームでも同様。田中さんが入居する老人ホームでも、個室とはいえ共有スペースが多く、コミュニケーションも盛ん。当然、入居者同士のトラブルも多かれ少なかれ発生しているよう。しかし、うっぷんはたまれど、老人ホームという狭い世界。なかなか発散することができず、そんなストレスが今回の脱走劇に繋がったようです。

 

株式会社LIFULL senior/LIFULL 介護の調査によると、入居前に「3ヵ所以上見学に行った」は全体の48.3%。老人ホームはしっかりと見学までして入居を決めるのが大多数。そのようななか、入居前に想定していなかったこととして、「食事が入居者の口に合わなかった」(14.1%)が第5位にランクイン。老人ホームにおいて食の問題はよくあるものです。

 

また、見学ではなかなか見つけられないのが入居者との相性の問題。入居者のバックグラウンドが大きく異なり、「コミュニケーションがうまくいかない」「孤立化してしまう」というケースはよく耳にする話です。老人ホームには「終の棲家」を期待しますが、実際は入居後の満足度が低く、退居/転居も珍しくない、と考えておいたほうがいいでしょう。

 

[参考資料]

株式会社LIFULL senior/LIFULL 介護/『介護施設入居実態調査 2025(探し方編)』