(※写真はイメージです/PIXTA)
ニーズ拡大も苦境が目立つ介護業界
「昨今の物価高により、月額利用料を20万円に引き上げます。それに同意いただけない場合は、ご退去をお願いすることになります」
年金では到底まかなえない金額に大野さんは呆然。その場で言葉を失ったといいます。「老人ホーム=終の棲家」と捉えている人が多くいますが、そうとは言い切れないところがあります。入居者側の都合だけでなく、施設運営側の事情によっても「退去」を余儀なくされるケースがあるのです。
介護付き有料老人ホームは、介護保険制度を利用したサービスが提供される民間施設であり、運営は主に株式会社や医療法人などが担っています。法律上、契約書に明記された退去要件に基づいて、一定の条件下では入居者に退去を求めることができます。
「利用料の長期未払い」「他の入居者や職員への著しい迷惑行為」「施設での対応が困難な医療状態」などは、一般的な退去要件ですが、大野さんのように、施設そのものの運営体制の変更や事業譲渡によって大幅な料金改定が行われ、それに同意できない入居者が「自主的な退去」を求められるケースもあります。
高齢化が進むなか、介護サービスのニーズは高まり続けていますが、2024年の介護事業所の倒産件数は172件と過去最高を記録するなど、介護事業を取り巻く環境はよいとはいえません。人手不足、物価高、介護報酬改定……さまざまな要因により、倒産件数はさらに増えていくだろうという予測も。サービスを継続していくためにも、月額費用の引き上げは、仕方がない部分もあるわけです。
「せっかく安住の地だと思っていたのに……どこか裏切られた気持ちでいっぱいです」
頭では理解しつつも、一気に4万円もの値上げには納得がいかない大野さん。とはいえ、費用を払い続けることが難しい以上、退居せざるを得ない状況。次の住まいを探すしかありません。
大野さんのケースでは、施設の経営が第三者に譲渡され、新たな運営会社によって一律の料金引き上げが実施されました。施設運営は慈善事業ではないため、急な料金変更や方針転換は受け入れざるを得ないでしょう。老人ホームへの入居を検討する際には、「価格」「立地」「サービス内容」だけでなく、運営会社の財務状況や、譲渡・買収が過去にあったか、将来的な方針変更のリスクなどにも目を向ける必要があります。
その後の大野さん。退去期限までに自身の費用感に合うホームを見つけ、転居することができてひと安心。ただそこも絶対的な安住の地ではないことは肝に銘じているといいます。
[参考資料]