誰にでも起こりうる、パートナーとの突然の別れ。いざというときの準備が万全でも、想定外の出来事により、それまでの日常が崩壊してしまうことは珍しくないようです。
絶望しかありません…〈年金月18万円〉67歳夫、心筋梗塞で急逝。残されたのは65歳妻と認知症の義父、突きつけられた過酷な現実 (※写真はイメージです/PIXTA)

体力や気力、時間…「老老介護」は想像以上に厳しかった

厚生労働省『令和4年 国民生活基礎調査』によると、90歳を超える要介護者は全体の24.3%。その要介護者の主な介護者(同居)の年齢として最も多いのが60代で54.4%。介護の現場において、「90代以上」と「60代」という組み合わせは13%程度と、実はよく見られる光景。恵子さんは夫を亡くしたことで、急遽、その当事者になったわけです。

 

介護は待ってくれません。徹さんを急に失ったことを悲しんでなんていられません。葬儀を終えたらすぐに義実家に泊まり込み、「主介護者」としての日常がスタートしました。義父の夜間徘徊に気をつけながらの眠り、薬をちゃんと飲ませることに神経を使い、入浴や排泄のケアも行わなければなりません。疲れが取れず、睡眠不足の毎日。

 

「自分がもう65歳だってことを改めて感じました。こんなに体が動かないものなんだって――」

 

お金の部分はどうなのでしょうか。恵子さんの場合、ケアマネジャーに相談して、デイサービスの利用日を週3日から週5日に増やすことにしました。義父の介護度は「要介護2」。1割負担で、毎月の支払いは2万円ほど。これに加え、おむつ代や消耗品、通院のタクシー代なども入れると、介護関連の出費は月に4万円くらいかかります。

 

「毎月の介護費用は義父の年金で賄うことができます。だから経済的な負担はまったくありません。それよりも肉体的な負担が大きくて、じわじわと体力と気力が削られていく感覚があるんです――」

 

肉体的な疲労の蓄積は、やがて精神的な疲労にも。介護を続けていくなかで、心も体も疲れ切ってしまったのです。

 

「義父のことは嫌いじゃないんですが、夫が亡くなったあと、誰にも頼らず毎日介護するのは正直、しんどいです」

 

徹さんが元気だったころ、施設への入所を考えたことがありました。しかし義父が強く抵抗するため計画は頓挫。そのため施設に入所する選択肢は、初めから恵子さんにはありませんでした。

 

しかし認知症の義父と対峙する日常のなかで、「こんな生活がいつまで続くんだろう」と絶望感を覚えたとき、「ここが限界だ。これ以上頑張れば、心も体も壊れてしまう」と悟った恵子さん。プロに委ねることを決断し、義父を老人ホームに預けることにしました。徹さんがいっていたとおり強い拒否感を示しましたが、選択肢はほかにありませんでした。

 

「夫はどう思っているんだろう――」

 

義父を施設に預けたことが正解だったのか、今はまだ自問自答しているといいます。

 

[参考資料]

厚生労働省『令和4年 国民生活基礎調査』