
「仕事人間」の末路…孤立と老後貧困の現実
ようやく夫婦でゆっくりと時間を過ごせると思っていた桑原さんにとって、離婚は寝耳に水でした。しかし、妻の意思は固く、弁護士を通しての話し合いしかできませんでした。
離婚にあたって、徹さんの金融資産と年金が分割されました。結果として、年金額は毎月20万円から14万円に減少。保有していた戸建ても財産分与の対象となり、売却して現金化したうえで妻と等分しました。現在は家賃8万円の古びたマンションでの一人暮らしです。
こうした「熟年離婚」は近年増加傾。厚生労働省の「人口動態統計(2023年)」によると、離婚18万3,808組のうち、婚姻期間20年以上の熟年離婚は23.5%を占め、増加傾向にあります。
財産分与は離婚をした者の一方が他方に対して財産の分与を請求することができる制度であり、夫婦が共同生活を送る中で形成した財産の公平な分配が基本とされています。財産分与の対象となる財産は夫婦共有名義のものだけでなく、夫婦の協力によって形成されたものであれば財産分与の対象。請求期限は離婚から2年以内とされています。
法務省『財産分与を中心とした離婚に関する実態調査』(令和3年4月)によると、離婚をするにあたり財産分与の取決めをしたのは37.3%に留まります。財産分与しなかった理由として最も多かったのは、「請求/支払いをする必要がないと思った」で55.8%。「相手から話合いを求められなかった」17.3%、「制度を知らなかった」14.8%と続きます。
このような状況から鑑みると、桑原さんの妻は、離婚に向けて用意周到に準備を進めてきたといえるでしょう。
桑原さんは、仕事一筋の人生を歩んできました。社内では厳しい部長として知られ、部下に対しても容赦のない指導を行っていました。「自分の役割は結果を出すことだ」と語るその姿勢は評価されましたが、同時に人望を得ることにはつながりませんでした。退職後は、連絡を取る相手もなく、趣味も地域活動もないまま、孤独な生活を送っています。これまで人間関係を築く努力を怠ってきた代償は想像以上に大きかったようです。
――本当、(元)妻にはやられました。私がどんな思いで働いてきたのか……あいつはわかってないんですよ