親には少しでも良い環境で過ごしてほしい。そんな親孝行の思いから選んだ「終の棲家」が、思わぬ形で家計を圧迫することがあります。高級老人ホームに入居した母を持つ女性のケースをみていきましょう。
「親孝行のつもりが地獄でした…」入居金1,200万円の高級老人ホームで笑う母、破産寸前の63歳娘。88歳、米寿の祝いで気がついた「残酷な誤算」 (※写真はイメージです/PIXTA)

高級ホーム入居3年目で突きつけられた「資金ショート」の恐怖

「母の長生きを素直に喜べないなんて……親不孝者です」

 

都内在住の田村美佐子さん(63歳・仮名)。3年前、当時85歳だった母・佐藤絹江さん(88歳・仮名)を、入居金1,200万円の高級有料老人ホームに入居させました。しかし今、その決断が田村さん自身の老後資金までをも脅かす事態に発展しています。

 

母のホーム入居を考えたきっかけは、父の他界でした。父が亡くなってから、母は広い実家に1人きり。「寂しい」と電話をかけてくる回数が増え、また高齢者を狙った事件もニュースになり、不安は募るばかりでした。

 

田村さんは1人娘で、現在、夫と2人暮らし。同居も考えたといいますが、夫と母の折り合いが悪く、また自身も仕事を続けていたため、介護に専念するのは困難でした。

 

そこで、「父が遺してくれたお金もあるし、少しでも良い環境で過ごしてほしい」と思い、老人ホーム探しを始めました。インターネットで検索し、パンフレットを取り寄せたのは、いわゆる「高級老人ホーム」ばかりだったといいます。

 

「価格の高い施設がよいホームだと思っていたし、そのようなところに入れてあげるのが、親孝行だと思って」

 

見学に行った際、ホテルのようなエントランスや、栄養バランスの整ったレストランのような食事に圧倒されました。ここなら母も惨めな思いをしないはず。そう確信し、入居一時金1,200万円、月額費用約30万円の施設に決めました。

 

父の遺産と実家の売却益、そして母自身の年金(月約15万円)を計算に入れれば、仮に母が90歳まで生きたとしても十分賄えると試算したのです。

 

実際に入居してからの母は、驚くほど元気になりました。

 

「食事が美味しいのよ」

「新しいお友達とカラオケをしたの」

 

面会に行くたび、母は楽しそうに話してくれて、以前よりも若返ったように見えました。スタッフも親切で、掃除や洗濯の手間もなくなり、まさに極楽のような生活。そんな母を見て、自身で思い描いていたとおり「親孝行ができた」と安堵していたそうです。

 

しかし、誤算が生じたのは先日のこと。母の88歳、米寿のお祝いをしたときです。

 

「ここは本当にいいところ。あなたのおかげで長生きできそう。100歳まで頑張らなきゃね」

 

満面の笑みでそう言われた瞬間、ハッとしたといいます。入居から3年。毎月の費用の不足分約15万円は、母の預貯金から取り崩しています。それに加え、医療費やオムツ代、施設内のサービス利用料などの雑費がかさみ、想定よりも遥かに速いペースで預金残高が減っていたのです。

 

もし母が本当に100歳まで生きたら? あと12年。単純計算でも不足分だけで2,000万円以上が必要です。母の資産は、とてもその年齢まで持ちません。そうなれば、自身の老後資金を差し出すしかありません。

 

「長生きしてね」という言葉が、これほど重く、呪いのように自分に返ってくるとは……。現在、入居金の償却期間が終わるタイミングを見計らって、月額費用の安い施設への転居を検討していますが、あんなに幸せそうな母にどう切り出せばいいのか、答えが出せずにいるそうです。