(※写真はイメージです/PIXTA)
少しの出費で破綻に追い込まれる「非正規・氷河期世代」の実態
「この時期は、怖いのが風邪ですね。インフルエンザなんてもってのほか。仕事は休まないといけないし、病院にだって行けない。恐怖でしかないです」
築45年のアパートの6畳一間の部屋で暮らす、田中健一さん(52歳・仮名)。日増しに寒さが厳しくなる季節ですが、暖房をつけると電気代がかさむため、室内でもダウンジャケットとマフラーが手放せません。
田中さんは、いわゆる就職氷河期世代。大学卒業時の不況で正社員の座を逃し、以来30年近く、派遣社員やアルバイトとして食いつないできました。現在は、工場のライン工として働いています。日給は9,000円。週6日勤務を自らに課していますが、それでも手取りは月16万円を超える程度にしかなりません。
「週6日、立ちっぱなしです。50歳を過ぎてから、膝と腰の痛みが慢性的になりました。でも、休むわけにはいかない。正社員のような有給休暇はありませんから、1日休めば9,000円が消えます。3日寝込んだら約3万円の損失。家賃4万5,000円が払えなくなり、すぐに生活に行き詰まります」
田中さんの家計は、まさに薄氷を踏むような状況です。家賃、光熱・水道費、通信費、社会保険料。これらを差し引くと、手元に残るのは4万円ほど。そこから食費と日用品を捻出すると、貯金はほぼゼロ。「老後2,000万円問題」が話題になったとき、田中さんはテレビを消したといいます。「今の生活さえままならないのに、老後のことなんて考えられるわけがない」と。
田中さんを最も追い詰めているのは、病院にも行けないという現実です。
「実は、右下の奥歯がボロボロで、噛むと激痛が走るんです。でも、歯医者にはもう15年近く行っていません。国民健康保険料をしっかりと払っているのだからとは思うのですが、それでも治療費の数千円さえ出せない。痛み止めを買って、騙し騙し暮らしています。柔らかいパンや麺類ばかり食べるので、身体もむくんで調子が悪い。悪循環なのは分かっていますが、どうしようもないんです」
田中さんの棚には、カップ麺の空き容器が積まれています。栄養バランスの乱れは、さらなる健康リスクを招きますが、野菜や果物は田中さんにとって高級品です。
「同世代の正社員の人たちは、ボーナスが出たとか、子どもが大学に入ったとか話していますよね。同じ日本に住んでいるのに、見えている景色が違いすぎる。私が想像できる未来は、現場で倒れてそのまま……という結末だけです。孤独死予備軍、なんて言葉を聞きますが、まさに私のことでしょうね」
言葉の端々に滲むのは、社会への怒りというよりも、深く静かな諦念でした。