親元を離れ、東京などの大都市での大学生活を始める若者たち。そこにあるのは夢や希望だけではありません。心理的な負担を前に、大きな葛藤が――。ふとしたきっかけで噴き出す本音が嵐を巻き起こすことも。
いつまでいるんだろう…「月収45万円」48歳サラリーマン、「仕送り月10万円」帰省中の大学1年長男が突然泣き出し狼狽。ポツリポツリと語りだした号泣理由に唖然 (※写真はイメージです/PIXTA)

「地元に帰りたい」と泣く子どもに親としてできること

拓海さんの言葉を聞いている里中さんは、ただただ唖然としていました。仕送りなど、金銭的な苦労はあると思っていましたが、拓海さんが東京で、こんなにも精神的に追い詰められていたとは、まったく想像もしていなかったからです。まさか自分の息子が「大学に居場所がない」「友達ができない」という悩みを抱えるとは、思いもよらなかった、と肩を落としました。

 

息子は、泣きながら「もう大学辞めて、地元に帰りたい」と里中さんに訴えました。里中さんとしては、息子の気持ちを思うと胸が締め付けられますが、安易に「帰ってこい」ともいえません。これまでにかかった費用が頭をよぎりますが、何よりも拓海さんがこれから社会で生きていくうえで、この程度の困難を乗り越えないとやっていけない、という思いがあったからです。

 

里中さんは、泣き疲れて眠ってしまった拓海さんの寝顔を見ながら、息子の「地元に帰りたい」という切実な願いと、親としての責任の間で大きく揺れ動いたといいます。

 

「あれは息子が限界を迎えて初めてのSOS。どうするのが正解か、本当にわかりませんでした」

 

とはいえ、拓海さんが泣きながらでも本音を打ち明けられる関係性があることは、何よりも救い。文部科学省の調査などでも、大学生の心の問題への対応は重要な課題として挙げられています。大学には学生相談室などのサポート体制がありますが、そこにアクセスできずに一人で悩みを抱え込んでしまう学生も少なくないのが現状です。必要であれば、大学のサポート体制の存在を伝え、利用を促すことも、親ができるサポート。子どもの問題をすべて親が解決するのではなく、子ども自身が「どうにか頑張る」ための道筋を一緒に探したり、背中を押したりする役割が求められているのかもしれません。

 

あれから1年。拓海さんは何とか大学2年生に。少ないながらも、大学では友だちもできたようです。

 

「息子にも、1人で解決する力が身についてきたのかな。東京では気が張っているでしょうから、地元に戻ってきたときは抱えているものを全部出し切ってほしいですね」

 

[参考資料]

一般社団法人全国大学生活協同組合連合会『第60回学生生活実態調査』