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見学だけでは分からない入居者同士の相性
今回の勝さんのケースは、決して特別なことではありません。老人ホームや介護施設における入居者間のトラブルは少なくないのが現状です。共同生活の場である以上、価値観や生活習慣の違う人々が集まれば、多かれ少なかれ摩擦が生じる可能性はあります。
厚生労働省の資料によると、高齢者向けの入所型の施設は2021年時点で2万3,000件、入居者は約86万人。右肩上がりで増加しています。施設に入居する人が増えれば、それだけ多様なバックグラウンドを持つ人々が集まることになり、人間関係の課題も生じやすくなると考えられるでしょう。
株式会社Speee/ケアスル 介護「介護施設で起きたトラブルに関する調査」によると、51.3%が「特にトラブルはなかった」と回答する一方で、16.7%が「ほかの入居者との喧嘩」と回答。トラブルのなかでは最も多いものでした。
恵子さんと勝さんは、施設の設備やサービス、費用、立地などを重視して施設を選びました。しかし見学だけでは見抜くことが難しいのが「入居者同士の相性」です。施設全体の雰囲気や、入居者が穏やかに過ごしているかどうかはある程度感じ取れますが、個々の入居者の性格や人間関係まではわかりません。勝さんの場合、元教員という経歴からくるプライドや、長年の生活習慣が、施設での集団生活になじむうえでのハードルになったのかもしれません。また、施設側も入居者の組み合わせを考慮しているとはいえ、すべての人にとって最適な環境を提供するのは困難といえるでしょう。
老人ホームを退去する主な要件には、ほかの入居者やスタッフへの暴力・暴言、共同生活を乱す行為といった「迷惑行為」が記されていることが多くあります。勝さんの場合、初めてのトラブルであったことなども考慮して、退去勧告までには発展しませんでした。また施設側もトラブルが起きた入居者同士、部屋を離すといった配慮も。
それでも勝さんが他の入居者とうまくやっていけるのか、施設の人間関係に馴染めるのか――ひとり暮らしをしていたときとは違う心配でいっぱいだといいます。
[参考資料]
厚生労働省『社会保障審議会(介護給付費分科会)』資料