高齢の親を思う気持ちと、自分や家族の生活を守る責任。その両立は想像以上に難しい現実と向き合うことになります。誰もが迎えるかもしれない「そのとき」、どんな決断しますか?
私には無理でした…月収50万円・52歳サラリーマン「東京と地元の二重生活」に限界。年金月8万円・80歳母に涙声で告げた残酷 (※写真はイメージです/PIXTA)

母の異変と、始まった二重生活

斎藤大輔さん(仮名・52歳)は、東京都内の中堅企業に勤務するサラリーマンです。妻と大学生の息子との3人暮らしで、月収は50万円。決して贅沢はできませんが、都内で生活していくにはなんとかなる収入でした。

 

そんな大輔さんに、突然、地元・宮城県でひとり暮らしをする母・千代子さん(仮名・80歳)から電話が入りました。「最近、起きているのが辛くてね」──その声には、かつての張りが感じられませんでした。

 

心配になった大輔さんは、翌週末、実家に向かいました。そこで目にしたのは、痩せ細り、あまり動けなくなっていた母の姿でした。病院に連れていくと、診断は加齢による体力低下。入院の必要はないものの、体力アップを目指さないと、日常生活に大きな支障があるとのことでした。

 

「一人では無理だ」。そう痛感した大輔さんは、そこから毎週末、東京と宮城を往復する生活を始めました。金曜夜に新幹線で実家へ、月曜の朝一番で東京へ戻り仕事に向かう──この二重生活は、金銭的にも想像以上に負担が大きいものでした。

 

交通費だけで月に10万円近くが飛びます。またヘルパー派遣などを依頼するには月8万円ほどの千代子さんの年金だけでは心もとなく、大輔さんが補てんすることも。

 

金銭的にも肉体的にも負担の大きな大輔さん。それでも、千代子さんが「施設だけは嫌だ」と強く拒む以上、他に選択肢はありませんでした。

 

本当に限界を感じ始めたのは、半年が過ぎたころです。仕事中も集中力を欠き、ミスが増えるようになりました。家では妻との会話も減り、息子との時間も取れません。大輔さんは「自分の生活が壊れていく感覚」があったといいます。

 

総務省『令和3年社会生活基礎調査』によると、家族介護者は全国で約653.4万人。同居家族が最も多く、そのうち配偶者が22.9%、子が16.2%を占めています。また年代別に介護者をみていくと、男女ともに50代が多くなっています。きっと大輔さんのように二拠点生活を送るように介護にあたっている人は少数派ではあるものの、今どき、珍しくはないのではないでしょうか。