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年金事務所で知った「遺族年金ゼロ」の衝撃
「なぜ、年金の繰下げなんてしたんだろう――」
その後悔は、さらに年金の手続きを進めるなかで大きくなったといいます。それは遺族年金の手続きでのこと。遺族年金には国民年金に由来する遺族基礎年金と、厚生年金に由来する遺族厚生年金があります。前者には子の要件がありますが、後者には子の要件がないため、聡子さんは遺族厚生年金を受け取ることができると考えました。そして年金事務所を訪れて手続きを始めましたが、その後、予想もしない事実に直面することになったのです。
年金事務所での手続きは、最初は順調に進んでいるように思えました。聡子さんは、清志さんが受け取っていた月23万円の年金を基準に遺族年金の受取額を考えていました。しかし、担当者から告げられたのは、「遺族年金は増額される前の金額を基準として計算されます」という冷徹な事実でした。
聡子さんは驚愕し、思わず言葉を失いました。繰り下げによって増額された部分、つまり42%増加した部分は遺族年金には反映されないのです。
「やっぱり、繰下げなんて意味なかったんじゃない」
遺族厚生年金の年金額は「死亡した人の老齢厚生年金の4分の3」。また自身が老齢厚生年金を受け取っている場合、「死亡した人の老齢厚生年金の2分の1と、自身の老齢厚生年金の2分の1の合算」を比較し、高いほうが遺族年金額になります。その結果、聡子さんが受け取れる遺族年金は月9.2万円。
月23万円で計算したときと比べて減りましたが、それでも月10万円弱が受け取れるなら――ここで話が終わるなら、まだよかったのかもしれません。しかし、老齢厚生年金は全額支給、遺族厚生年金は老齢厚生年金に相当する額の支給停止となる、というルールがあります。聡子さんの毎月の年金受取額は、清志さんと同等の16万円。つまり遺族年金は全額支給停止となり、「受取額はゼロ」ということになります。衝撃的な結果に、また言葉を失った聡子さん。理解するまでにしばらく時間がかかったといいます。
「男は仕事、女は家庭といわれている時代でしたが、そんなことに負けないように頑張って働いてきたんです。それなのに――その頑張りは無駄だったねといわれているようで、なんか悔しいです」
この遺族厚生年金と自身の老齢厚生年金の「併給調整」。ルールといってしまえばそれまでですが、納得できないという声が大きいのも事実です。実際、この不公平感を解消しようという声もありますが、今のところ「併給調整」がスタンダード。年金のルールを正しく理解したうえで、万一の場合に備える以外の方法はありません。
[参考資料]
厚生労働省『令和4年度 年金制度基礎調査』
日本年金機構『年金の繰下げ受給』『遺族厚生年金(受給要件・対象者・年金額)』