老後の生活設計を「公的年金」。少しでも受取額を増やしたいと、「年金の繰下げ」を選択する人が増えています。一方で、その裏には制度特有の思わぬ落とし穴も。さらにその落とし穴は二重になっていることがあるので要注意です。
なぜ年金の繰下げなんてしたんだろう…「年金月23万円」の72歳夫は2年の闘病の末に他界。哀しみの65歳妻は年金事務所で2度絶句「あまりに理不尽では?」 (※写真はイメージです/PIXTA)

夫の年金受給額を増やした選択がもたらした衝撃

原則、65歳から始まる老齢年金の受け取りですが、66~75歳まで遅らせることができます。その分、1ヵ月遅らせるごとに0.7%年金受取額がアップ。これが「年金の繰下げ受給」と呼ばれる制度です。

 

*昭和27年4月1日以前生まれの場合は、上限年齢が70歳まで

 

年金以外の収入があるうちはそれで生活ができるから、年金の受け取りはいい。それよりも、将来的に年金の受取額が増えたなら――たとえばそんな思いで繰下げを選ぶのでしょう。厚生労働省『令和4年度 年金制度基礎調査』によると、年金受給者3,421万人のうち、繰下げ受給を選択した人は70万人で全体の2.1%。その数は徐々に増加傾向にあります。

 

そんなひとりである、松本清志さん(仮名・72歳)。60歳で定年退職を迎えました。それに対し、5歳年下の妻・聡子さん(仮名・67歳)の定年は65歳。清志さんは聡子さんが現役で働いているうちはその収入で生活ができるため、「それであれば年金の受取額を増やそう」と繰下げ受給を選択。その結果、70歳まで繰下げ、月々の年金額は16万円ほどから23万円ほどと、月7万円もアップしました。そして聡子さんは65歳定年と同時に月16万円の年金を受け取り始めます。夫婦合わせて月40万円近い年金収入。これだけあればお金の心配は一切感じることなく、穏やかな日々を送れるはず。

 

しかし人生は、思ったようにいくとは限りません。年金の受け取りを開始したあと、清志さんにガンが見つかり、2年間の闘病生活を経て、この世を去りました。

 

「こんなことになるなら、もっと早く仕事を辞めて、夫との生活を楽しめばよかった。年金が増えたところで全然意味がない」

 

そんな後悔でいっぱいになり、とめどなく涙があふれてきたといいます。