高齢化が進むなか、親の年金に依存する中高年の子どもたち――かつて「就職氷河期」と呼ばれた世代が、今や40〜50代となり、長年抱えた傷や失敗体験から社会に戻れないまま、家族の負担になっている現実があります。年金収入で老後を支え合うはずだった高齢夫婦も、思い描いていた未来とは異なる厳しい現実に直面しているのです。
もう、ダメだ…「年金月32万円」70歳の元会社員夫婦、「42歳の働かない息子」と高過ぎるプライドで老後崩壊。親子共倒れの「悲惨な現実」 (※写真はイメージです/PIXTA)

働かない「氷河期世代」の息子…その先に待つ「親子共倒れリスク」

長男がこうした状況に陥った背景にあるのが「氷河期世代」という社会問題があります。 バブル崩壊後の1990年代後半から2000年代初頭、深刻な就職難に直面しました。非正規雇用に甘んじるしかなかったり、正社員として採用されても今ほど法令順守の意識が強くなく被雇用者の立場が弱かった時代、「嫌なら辞めていいんだぞ」と罵倒され、脱落してしまう人も。その後、満足なキャリアを歩むことができず、今なお低空飛行が続く――そんな人が昨今話題になっている、支援が必要とされる80万人の氷河期世代の人たちです。

 

さらに努力しても報われない――そんな経験を積み重ねるうちに、働く意欲を失ってしまった人も少なくありません。中田さんの長男もそのひとりといえるでしょう。

 

政府も、こうした就職氷河期世代を支援するため、再就職支援プログラムや職業訓練の機会を拡充しています。しかし、いったん就労意欲を失った中高年にとって、再び社会に出るハードルは想像以上に高いものです。プライドの問題、過去の失敗体験への恐れ、社会との断絶感……。「甘い」といってしまえばそれまでですが、制度があっても利用に至れない人たちも多く存在するのです。

 

「もう、ダメだ」

 

解決策が見当たらず、絶望感に襲われたことは一度や二度だけじゃないといいます。それでも中田さん夫婦は静かに心に決めたことがあるといいます。難しいとわかっていても、息子との未来のために最初の第一歩を踏み出す覚悟を固めつつあるのです。避け続けてきた本音での話し合いに加え、地域のひきこもり支援窓口や相談機関に連絡をしてみる。「これまでは、恥ずかしいという思いから、長男のことを人に相談したことはありませんでした。プライドが変に高過ぎたのかもしれません。長男はこじらせてしまったのは私たちの責任でもあるのです」。

 

親がいつまでも元気であるわけじゃない。この先に待つのは、親子共倒れという、さらに悲惨な未来です。このような状況から抜け出す最初の一歩は、強い痛みを伴うかもしれない――それでも、閉塞感を破る小さな光を見出そうと、中田さん夫婦はその一歩を探し、踏み出そうとしています。

 

[参考資料]

総務省『令和4年就業構造基本調査』