(※写真はイメージです/PIXTA)
「親の介護」と「実家暮らしの働かない息子」で穏やかな老後が…
中田秀一さん(仮名・70歳)は、かつて大手メーカーに勤めるサラリーマンでした。堅実な勤務を重ね、定年まで勤め上げたあと、再雇用で年金支給が始まる65歳まで働き、そのあとは年金を受け取りながら夫婦ふたりで穏やかな老後を迎える――そんな誰もが思い描くような生活を実現することができたでしょう。しかし現実は想像していたものとはかけ離れたものでした。
現在、中田さんの家計は、秀一さんが受け取る年金が月20万円、妻・明美さんが月12万円。夫婦合わせて32万円、手取りにすると27万円。贅沢ができるわけではありませんが、高齢夫婦の生活だけを考えれば十分すぎる金額です。
しかし、中田さんの家にはもうひとり、42歳になる長男がいました。
長男は、いわゆる「氷河期世代」。就職活動に苦戦したものの、何とか内定を勝ち取り、無事、大学を卒業しました。しかし、ようやく就いた会社では過酷な長時間労働を強いられました。心身ともに疲弊し、30歳手前で離職して実家に戻ってきたときには、肉体的にも精神的にも疲弊しているのは明らかでした。
「しばらく休ませてあげよう」。 当時、中田さん夫妻はそう思いました。今必要なのは休むこと。無理に働かせるより、まずは心身の回復を優先すべきだと考えたからです。しかし、そうしてから気づけば10年以上が経っていました。この10年の間に、中田さん自身も親の介護問題に直面。自分たちの生活で手一杯になり、息子のことだけにかかりきりにはなれなかったのです。
最近の長男は中田さんの車を借り、よく出かけています。元々写真を撮るのが趣味だった長男。どうやらカメラ片手に撮影に出かけているよう。趣味に時間を割くくらいであれば、もう大丈夫だろう。「そろそろ働きに出たらどうだ?」とさりげなく尋ねたことがありましたが、「もうあんな思いをするのはゴメンだ」とシャットアウト。トラウマを抱えているといえなくもないですが、中田さん夫婦には「親に依存している」としかみえないといいます。
しかし専門的なことはわからないので、無理強いするのもよくないのでは――そう思い、それ以上は強くいえなかったといいます。親の介護問題に加えて、働かない息子によって、穏やかな老後は崩壊。そして夫婦は70代に突入。次は自分たちが介護を受ける側になることも現実味を帯びてきています。長男に世話になるつもりはありません。 ただ、このまま万一のことが起きたとき、息子はどうなるのか――。親子共倒れが現実になろうとしています。
厚生労働省が実施した『就業構造基本調査(令和4年版)』によると、40〜50代の男性無業者は全国で約120万人にのぼります。そのうち、家事をしている人、通学している人は30万人。残り、90万人のなかには、親世代に依存しながら暮らす中高年もい多いと考えられます。