(※写真はイメージです/PIXTA)
定年後に突如として悪化した健康状態
「膝が痛くて、外出どころか、散歩さえできなくなってしまいました。日常生活で階段を昇るのも一苦労です」と、佐藤さんは悩みます。最初は、痛みが一時的なものだと思っていたのですが、整形外科で診察を受けた結果、膝関節症が進行していることがわかります。
膝関節症の治療方法としては、まずは薬物療法や理学療法が行われますが、それでも改善しない場合には、人工関節手術が検討されます。佐藤さんも、医師から人工関節の手術を提案されましたが、手術に対する不安やリスクが大きく、決断を下すには時間がかかりました。「人工関節にするかどうか、ずっと悩んでいます。手術が保険適用なので費用はそれほど心配していないのですが、生活の質がどれほど変わるのか心配です」。手術後のリハビリや通院が長期にわたる可能性があり、経済的な負担を避けることは難しいという現実があります。
現役時代、仕事に忙殺されてきたため、「すべての楽しみは老後にとっておいた」と佐藤さん。友人たちと趣味を楽しみ、妻とは全国津々浦々旅をする――。しかし、膝の痛みがひどくなり、外出自体が難しくなると、夢の旅行も先送りに。生活習慣の改善に努めたものの、体調の悪化はその努力をも打ち砕き、佐藤さんの老後の夢は次々と遠ざかっていったのです。
長寿化を背景に、定年後も働き続けられる環境はどんどん整備されています。それに伴い、実際に働く高齢者は増加傾向。総務省によると、2023年度、65歳以上の就業率は25.2%。「60~64歳」は74.0%、「65~69歳」は52.0%、「70~74歳」は34.0%。60歳定年の企業が多いなか、働かない60代は少数派といえる状況です。
一方で健康に問題なく日常生活を送れる期間である健康寿命は、最新の2022年で男性が72.57歳、女性が75.45歳。悠々自適な老後は思っている以上に短い期間といえるでしょう。
佐藤さんの老後は健康問題とともに次々と崩れ去り、経済的な負担も加わることとなりました。医療費や手術費用を賄うために、貯金や退職金を取り崩していくことになり、佐藤さんは改めて老後の生活設計を見直す必要性も感じています。
[参考資料]
厚生労働省『健康日本21アクション支援システム ~健康づくりサポートネット~』
総務省『統計トピックス No.142 統計からみた我が国の高齢者』