高齢化が進むなか、住居の確保がいかに難題になっているかは、あまり語られなかったことかもしれません。貯蓄も年金もある。それでも「住める場所がない」現実に、多くの高齢者が直面しています。「住まいさえ確保できれば老後は安泰」――そんな常識が、静かに揺らいでいるのです。
なぜ、こんなことに…「年金月20万円」「貯金3,000万円」老後不安とは無縁の75歳おひとり様男性、マンガ喫茶で寝泊まりすること1週間。余裕の老後が一転した「まさかの理由」 (※写真はイメージです/PIXTA)

1週間のマンガ喫茶暮らし、そしてようやく見つかった住まい

迎えた退去期限。結局、新しい住まいが見つからないまま、加藤さんはマンションを出ることになります。とりあえず、ビジネスホテルに泊まろうと思いましたが、「なんと、こんなに高いのか!」と驚いたといいます。観光客急増が原因でしょうか、どこも1泊1万円以上。加藤さん、「払えないこともないけど、1泊1万円以上出すのは抵抗がありました」」といいます。行き場を失い、最終的に向かったのは、駅近くのマンガ喫茶。24時間、4,800円。居心地のいい場所とはいえず、滞在が長引けば出費も大きくなります。

 

「まさかこの年齢で、住むところがなくなるなんて。ほんの1週間のことではありましたが、何度も夜中に目が覚めた」。そう語る加藤さんは、「家なし」と紙一重の状況を体験することになります。その後、インターネットで見つけた高齢者支援団体の紹介で、ようやく受け入れてくれる賃貸物件にたどり着きました。いわゆる「高齢者歓迎型」の物件で、孤独死対策として見守りサービスがついています。ただし家賃は想定していたより高く、月額8万円。仕方がない出費だと割り切っているといいます。

 

総務省統計局『住宅・土地統計調査』によれば、65歳以上の高齢者が家計を支える世帯1,695万世帯のうち398万世帯、全体の23.5%が賃貸住まい。また245万世帯と、6割がひとり暮らしの高齢者です。持ち家のない高齢者、特に加藤さんのようなひとり暮らしの場合、「家を借りづらい」というケースは珍しいことではありません。

 

加藤さんは現在も、節約をしながらの生活を送っています。「安心して暮らせる場所を見つけただけでも運がよかったのかもしれない」と語りますが、老後の安心はお金だけでは手に入らないという現実を思い知ったといいます。持ち家を持たない高齢者が増えるなかで、「借りられないリスク」への備えはより現実的な課題です。高齢者向け賃貸制度の整備や、公的支援の強化が求められています。

 

[参考資料]

株式会社R65『65歳以上が賃貸住宅を借りにくい問題に関する実態調査』

総務省統計局『住宅・土地統計調査』