老後は自由な時間を楽しみたい――そう考えるのは、ごく自然なことです。長年働き、家庭や社会に貢献してきた人たちが、引退後に自分のための時間を大切にする。しかし、その自由の裏には、想定を超える経済的リスクが潜んでいることもあるようです。
好きに生きようと思っただけなのに…「年金月23万円」68歳の元教師、教壇を降りてから3年で「貯金1,500万円」を失った「まさかの理由」 (※写真はイメージです/PIXTA)

公務員でも安泰とは限らない老後

田中さんのように、安定した職業とされる公務員であっても、老後の生活が必ずしも安泰とは限りません。実際、人事院が発表した『令和5年退職公務員生活状況調査報告書』によると、60歳で退職した国家公務員のうち18.2%が「常に家計が赤字で生活が苦しい」と答えています。また、「時々赤字」と回答した人を含めると、その割合は全体の41.5%にものぼります。

 

さらに、同調査では、定年後も「働きたい」と回答した元公務員が83.3%に達しており、その理由の多くが「生計維持のため」とされています。田中さんも「まさか自分が老後資金に不安を感じるとは思わなかった」といい、「老後はもっと自由だと思っていた」と続けます。

 

このまま何も考えずに出費を続けると、老後破綻というのも現実になってしまう――現在、田中さんは趣味の頻度を月1回程度に抑え、旅行も近場での1泊2日に変更。食費や保険料、通信費といった固定費の見直しも行い、家計のスリム化に努めています。

 

娘夫婦には「継続的な支援は難しい。今後は自分たちでやりくりしてほしい」と伝えました。もちろん、お小遣いやお年玉といった、「家族に頼られるのは悪い気はしない。でも、それが自分の生活を圧迫するようでは意味がないと気づきました」と冷静に語ります。

 

今後は、加齢にともなう医療費や介護サービスなど、予測しにくい支出が増えていくことが想定されます。総務省の『家計調査報告(家計収支編)2023年』では、60歳以上の単身世帯の医療費は、月平均で約7,000円とされており、加齢とともに増加傾向が見られます。

 

公務員としての長いキャリアを終え、当然のように始まると思っていた「ゆとりある老後」。しかし、それは想像以上に自由ではないことを知りました。今は想定外の出費に備えつつ、そのなかで自由を満喫しようと考えています。

 

[参考資料]

文部科学省『令和3年度 子供の学習費調査(令和3年度)』

人事院『令和5年退職公務員生活状況調査報告書』

総務省『家計調査報告(家計収支編)2023年』