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挨拶が返ってこない…住人の半数が賃貸や投資目的だった
きっかけは、マンション内で開催された住民説明会でした。管理組合の理事が「所有者の出席が足りない」と繰り返し訴える場面で、杉本さんは初めて、同じフロアの多くの住戸がオーナー不在であることに気づきました。実際に、近隣住戸の住民とは顔を合わせる機会も少なく、挨拶をしても無反応なことが珍しくなかったといいます。短期的に入居してはすぐに退去していくケースも多く、引っ越しの段ボールが常にどこかの部屋の前にあるような状態が続いていました。
調べてみると、そのタワーマンションの販売住戸のうち、約半数は法人名義や海外投資家による所有とされており、実需目的ではなく「投資目的」として利用されていました。実質、住人と呼べるのは総戸数に対して半数にも満たない状態だったのです。
当初は「都心のタワマンとはこういうものかもしれない」と考えていた杉本さん。しかし、都心のタワーマンションの実情を知れば知るほど、不安ばかりが増したといいます。
「同じように都心にあるタワーマンションを買った知り合いがいるのですが、話を聞くと、そちらは問題が顕在化しているようで」
昨今の物価高により、マンションの管理費・修繕積立金も高騰しています。それはタワーマンションも例外ではありません。杉本さんの知り合いのマンションでは、近い将来の大規模修繕に備え、積立金の増額が検討されていましたが、議論は難航しているとのことです。所有者が不在の部屋が多いため議決権が機能しづらく、管理組合が意味をなしていないといいます。
「私たちのマンションも同じような問題を抱えていると考えています。管理組合が機能不全の状態が続くと、長期的な資産価値の毀損につながるのでは――そんな不安が募ります」
高騰を続ける新築マンションの価格。株式会社不動産経済研究所の報告によると、今年2月の首都圏新築分譲マンションの平均価格は7,943万円で、前年同月比11.5%増。また、東京23区に限ると、平均価格は1億0,392万円で14.1%増でした。一方で、価格高騰の流れは踊り場に来ているという専門家もいます。都心回帰の流れがひと段落し、現在の価格を押し上げているのは投資筋によるもの。投資家が引くと、価格が下落に転じる可能性が高いといいます。
杉本さん夫妻は「今のうちに買わなければ手が届かなくなる」という焦燥感のなかでの決断でした。1億円近いローンは、世帯年収2,000万円の家庭であっても決して軽い負担ではありません。しかし、「将来、値上がりするかもしれない」という期待感も購入を後押ししました。そのようななか、価格下落は大きな痛手です。さらに、海外投資家の購入比率が高まったことで、住人と物件所有者のギャップが広がり、マンション内の一体感や治安に課題を抱えるケースも後を絶ちません。
このような状況に後悔を口にする杉本さん。一方で、すぐに気持ちを切り替え、今では前向きに捉えているとのことです。
「私たちのマンションも、結構売りに出されているんですよ。その価格をみる限り、新築時よりも値上がりしています。資産価値の高いマンションだと評価されている証拠ですよね。きちんと注視していけば、売り時を逃すことはない。今後も、注意深くみていきます」
杉本さん、夫婦の住まいとしてタワマンを購入したものの、今は投資家としての視点もしっかりと持ち、「絶対に損はしない!」という覚悟でいるといいます。
[参考資料]