数々の苦難を乗り越え、長年の勤めを終えて受け取る退職金。初めて手にする大きな金額を前に、どのように管理し、活用していくか、新たな課題に直面する人も多いでしょう。本記事ではAさんの事例とともに、退職金の運用における落とし穴をCFPの伊藤貴徳氏が解説します。※プライバシー保護の観点から、相談者の個人情報および相談内容を一部変更しています。
過去の自分を殴りたい…退職金2,000万円・一心不乱に働き続けた65歳定年サラリーマン、元同期との再会で“驚愕の真実”を暴露「銀行を信じてバカだった」【CFPの助言】 (※写真はイメージです/PIXTA)

銀行から提案された“特別な商品”を断った理由

「A様、ようこそ。今日は特別なご案内をさせていただきたく、お時間をいただきました。実はA様のように退職された方だけが対象の、特別な金利優遇プランがあるんです」

 

投資などはお金に余裕がある人がやるもの、自分には無縁といままで考えてこなかったAさん。しかし、退職金のようなまとまったお金を手にすることは後にも先にもこの機会だけなので、話くらいは聞いてみようと銀行を訪れました。行員から差し出されたのは、「投資信託+円定期預金」または「ファンドラップ+円定期預金」の同時預け入れによって、定期預金の金利が引き上げられるという案内です。

 

「資産運用の第一歩」として勧められた商品

「いま、A様のように退職金を受け取られた方が、資産運用の第一歩としてよく選ばれているのがこちらです」行員は2つのシミュレーション表を机に並べます。

 

「たとえば、総額1,000万円以上をお預け入れいただければ、円定期預金の3ヵ月金利が年〇%になります。ただし、この条件を満たすには、一定額以上の投資信託かファンドラップのご購入が必要になります」

 

Aさんは首をかしげながら聞きます。

 

「それって、定期預金の金利を上げるために、リスクのある商品も買わないといけないってこと?」

 

「はい。ただ、いまは市場の状況もよく、分散投資される方が増えています。もちろん、投資信託は価格が変動いたします。ただ、長期保有でリスクを抑えることもできますし、その点は長期でお考えください

 

Aさんはパンフレットをたたみ、そっといいました「うーん、少し考えさせてください。正直、定期預金に魅力を感じたけど、投資信託はあまりよくわかってなくて……」。

 

行員は終始笑顔で丁寧な対応をしており、決して強引ではありません。むしろ親身な提案をしてくれていると感じました。しかしAさんにとって、退職金は老後のための守るべきお金。いますぐ使う予定はなくても、「自由に使えなくなる可能性」があるのは、想像以上に不安だったのでした。