少子高齢化が進み、自助努力を求められる時代。老後に生活困窮に陥ってしまう人が一定数いる一方で、計画的な資産形成の成果が老後に実を結ぶ人も。しかし、経済的に豊かな老後のなかでも人生に後悔を残すシニアも多いようで……。本記事ではAさんの事例から、CFPの伊藤貴徳氏が老後の本当の豊かさについて深掘りしていきます。※プライバシー保護の観点から、相談者の個人情報および相談内容を一部変更しています。
俺の人生、一体何だったんだろう…資産1億円・年金月24万円の76歳元部長、入居金数千万円の高級老人ホームに引っ越しも「不幸のどん底」と悔恨の理由 【CFPの助言】 (※写真はイメージです/PIXTA)

豊かな老後のはずが、後悔まみれ

「なんのために、こんなに働いてきたのか……」

 

Aさん(76歳)は高級老人ホームの一室で、深いため息を漏らしました。現役時代はとある企業で部長職を務め、退職金も含めて資産は約1億円。公的年金も月に24万円と、数字だけみれば「理想的な老後生活」を送ることができるはずでした。

 

しかし、Aさんの心には虚しさが広がっています。家庭を顧みず仕事に邁進し、老後の備えは万全だったはずなのに……。いま、彼の口から出る言葉は「不幸のどん底」という言葉でした。お金は確かに大切です。老後に困らないための資産形成は、いまや誰にとっても避けては通れない課題でしょう。しかしながら、それだけでAさんが満たされることはありませんでした。

 

もし、あなたが老後に潤沢な資産を手にしていたとしたら……。それだけで幸せになれるでしょうか? Aさんの事例をもとに、あなたにとっての「本当の豊かさ」について考えてみましょう。

昇進・資産形成に邁進…仕事に人生を捧げた現役時代

Aさんは、東京の下町で育った昭和生まれの団塊世代。高校を卒業後にとある企業に入社し、真面目さと責任感の強さで着実に出世の階段をのぼってきました。30代で営業課長、40代で部長、50代では役員候補として社長の信頼も厚く、長年の勤続と実績を認められていました。定年退職の際には「我が社の功労者」として盛大な送別会が開かれ、本人も「人生を仕事に捧げたことに悔いはない」と語っていたほど。

 

Aさんは、収入の約3割を貯蓄に回すことを若いころから徹底。派手な趣味はなく贅沢もせず、定期預金、財形貯蓄、そして40代からは投資信託を活用してコツコツと資産を積み上げました。

 

「一発逆転ではなく積み重ねることが正義」Aさんの口ぐせです。その結果、退職時点での金融資産は約8,000万円。退職金を含めると、老後は1億円の資産を持っての再スタート。公的年金も月24万円あり、経済的にはまさに「成功者」でした。