数々の苦難を乗り越え、長年の勤めを終えて受け取る退職金。初めて手にする大きな金額を前に、どのように管理し、活用していくか、新たな課題に直面する人も多いでしょう。本記事ではAさんの事例とともに、退職金の運用における落とし穴をCFPの伊藤貴徳氏が解説します。※プライバシー保護の観点から、相談者の個人情報および相談内容を一部変更しています。
過去の自分を殴りたい…退職金2,000万円・一心不乱に働き続けた65歳定年サラリーマン、元同期との再会で“驚愕の真実”を暴露「銀行を信じてバカだった」【CFPの助言】 (※写真はイメージです/PIXTA)

たどり着いた、新たな老後設計の形

Aさんが気づいたのは、退職金をどう使うかに正解はないということです。誰かにいわれたとおりにするのではなく、自分の人生、自分の価値観に照らして「なんのために使いたいか」「どう使えば後悔しないか」を自分で考え、納得感を持って選ぶことがなにより大切だということでした。

 

Aさんは退職金2,000万円のうち、一部を生活防衛資金と医療・介護の備えとして確保し、残りは年金と合わせて生活資金として分割して取り崩す計画を立てました。

 

また、自分と妻の「やりたいことリスト」を書き出し、趣味や旅行のための“楽しみ予算”を設定。「増やす」ことよりも、「計画的に活かす」ことを選んだのです。資産運用にも少しだけチャレンジしましたが、それも無理のない範囲で。

 

商品を選ぶときには、FPに相談しながら「理解できるものだけ」を選びました。Aさんが選んだのは、“安心”と“楽しみ”のバランスがとれた老後設計。それは、高度な投資テクニックではなく、情報を集め、時間をかけて考え、少しずつ整えていった結果でした。

 

退職金は、あなたの何十年もの努力の結晶です。言い換えれば、人生の報酬ともいえる存在。だからこそ、「すぐに使い方を決めなければ」と焦る必要はありません。周囲からさまざまな提案があっても、一度立ち止まり、自分の言葉で「どう使いたいか」を考えてみることです。大切なのは、誰かに勧められたからではなく自分が納得して選んだかです。

 

 

伊藤 貴徳

伊藤FPオフィス

代表