積立投資の本当の意義
さて、ここまでの検証で、積立投資やドルコスト平均法に理論的なリスク低減効果は確認されないということがわかりました。この結果を受けて、「それなら、そもそも積立投資をする意味ってあるの?」と疑問に思われた読者の方も多いのではないでしょうか。
実際、多くの解説で誤った説明がなされてきたこともあり、不信感を抱くのは当然です。
しかしながら、説明に問題があっただけで、積立投資という手法自体が無意味というわけでは決してありません。冒頭でも触れたとおり、積立投資は非常に大切なコンセプトですので、そこはどうぞご安心ください。
では、どんな人にとって積立投資が有用なのか? 具体的には、以下のような方々にとって積立投資は非常に効果的です。
1.心理的なリスク許容度が低い方
ここでいう「心理的なリスク許容度が低い」とは、経済的にはリスクを取れる状況でも、投資に対して心のどこかで恐怖や不安を感じてしまう方を指します。
投資は、生活をより豊かにするための手段であるべきです。不安を抱えながら行うものではありません。いくらリターンが見込めても、精神的な負担が大きいのであれば、その投資はむしろ効用としては“損”だといえるでしょう。
そういった方には、たとえ経済的に大きな金額を投資できたとしても、まずは投資金額を小さく設定し、徐々に増やしていく積立投資という方法が非常に向いています。
ただしここで注意点があります。積立投資にリスクを低減する効果がある、という誤解は捨ててください。あくまで、精神的な負担を和らげ、投資に慣れていくための段階的な導入手段である、という位置づけです。
2.定期的な収入のある方
たとえば会社員など、毎月安定した給与収入があり、生活費を差し引いても余剰資金が生まれるという方には、積立投資は非常に合理的な選択肢となります。
なぜなら、日常的に収入があるということは、現金が自然と手元に増えていくことを意味します。これは裏を返せば、「なにもしていないつもりでも、日本銀行券(日本円)への投資比率がどんどん高まっている」ということなのです。
最適な資産配分(アセットアロケーション)を維持したいと考える投資家にとっては、これは避けたい事態です。円だけが勝手に増えてしまい、リスク資産とのバランスが崩れてしまうのです。
ここで積立投資を活用すれば、毎月の余剰資金を自動的にリスク資産へと振り分けることができ、資産配分を整えやすくなります。
たとえるならば、美味しいスープに少しずつ水が注がれていくようなものです。水が増えれば、その分だけ具材や調味料も足さなければ、味が薄まってしまいます。積立投資とは、水が入ってくるたびに必要な材料も一緒に加えて、味を整えていくプロセスなのです。
上記で挙げたようなケースに当てはまらない方――つまり、心理的にも経済的にもリスクを十分に許容できる方にとっては、必ずしも積立投資を選ばなければならない理由はありません。
この記事で検証してきたとおり、積立投資には「投資金額を小さくする」以上の理論的なリスク低減効果は確認されません。したがって、リスクを取れる余力があるにもかかわらず、無理に積立の仕組みを設計する必要はないのです。
むしろ、自分の投資スタイルや目的に応じて、一括投資や他の手法を柔軟に選んでいくほうが理にかなっています。
NISAにおける積立投資の意味
ただし、NISAという制度を利用するという前提に立つと話は別です。ご存じのとおり、新しいNISAでは「つみたて投資枠」が設定されており、制度上、この枠を活用することが前提となっています。年齢や職業に関係なく、NISAを最大限活用しようと思えば、結果として積立投資を利用することになる――という構図です。
このように、積立投資は投資戦略として必ずしも“万能”ではありませんが、制度との相性や活用方法しだいで非常に有効にもなり得ます。
NISA口座の上手な活用法については、また次回以降でじっくりとご紹介していきたいと思います。どうぞお楽しみに。
岡野 大
株式会社sustenキャピタル・マネジメント
代表取締役/最高経営責任者 CEO
