逆説的な結果に見る本来の「時間分散」効果
実際に、リスクの総量(=投資元本×時間)が等しくなるよう調整したうえで10年後の損益のばらつきを比較したところ、ほとんど差は見受けられません。平均からの下方乖離という意味ではAの積立投資のほうが悪い結果です。
さらに、「損失が出る確率を減らせる」というよくある説明も裏づけられませんでした。むしろ10年後に損益がマイナスになる確率は積立投資のほうが高く、リスクの軽減どころか悪化していたのです。
なぜ、こんな逆説的な結果になるのでしょうか?
A(積立投資)のほうが投下する総投資元本は多いにもかかわらず、B(半額一括投資)のほうがパフォーマンスがいい――この事実は、直感的には受け入れがたいかもしれません。しかし、ここにこそ、皮肉にも「本来の意味での時間分散効果」がBに有利に働いているというカラクリが隠されています。
本来の「時間分散」効果とは、投資のタイミングを分けることではありません。本来の意味は、“時間が経過することで、結果のばらつきが相対的に低下していく現象”を指します。
そう、時間分散とは本来「積立投資のメリット」を説明するものではなく「長期投資のメリット」を説明する際に使うべき言葉なのです。
たとえば「(時間分散ではない、通常の)分散投資」は、1度に振るサイコロの数を増やすことでばらつきを抑えるイメージです。一方の「時間分散」は、サイコロを何度も振ることで、徐々に結果が安定していくことを意味します。
どちらも試行の「分散」によって結果のブレを抑える点では共通していますが、その対象が「空間(複数資産)」か「時間(投資期間)」か、という違いがあります。
先ほどの実験に戻ると、A(積立投資)とB(半額一括投資)は、総リスク量(投資元本×投資時間)が等しくなるように設計されています。この条件設定は、投資手法の性質を比較するうえではフェアな前提です。
しかしよく見ると、B(半額一括投資)のほうは、投下した元本あたりの投資“時間”が長くなっています(なにせ最初に600万円をドンと入れて、それを10年間運用しているわけですから)。この点こそが、「時間分散効果」を最も素直に享受できる要因となっています。
つまり、Aの積立投資のほうが投下した資金が大きいわりに、平均投資時間が相対的に短くなってしまうため、結果のばらつきが大きくなってしまう。その一方で、Bは少ない元本を相対的に長く運用している分、リスクが時間によってならされ、より安定した結果が得られる――というわけです。
