二世帯住宅にするから同居しない? そんな「安く住める家」へのお誘いは、何かとお金がかかる現役世代にしてみたら喉から手が出るほどの話。しかし本当にお得なのか――表面的な金額の損得を超えて、見落とされがちな落とし穴があるようです。
どうせ俺の金だろ?〈月収42万円・40歳の夫〉の余計なひと言で「二世帯住宅計画」が崩壊寸前。〈月収38万円・38歳の共働き妻〉が突きつけた「義親との同居条件」 (※写真はイメージです/PIXTA)

プライバシー確保の二世帯住宅でも懸念されるのは…

「しかも、その家は義父母の名義。相続が発生したとき、すんなりといくかどうか――」と考えたとき、急に不安が募ってきたといいます。

 

物理的な距離以上に厄介に思えてきたのが心理的な近さです。義実家の敷地内で生活することで、お互いに家族の「都合の良い労働力」として期待するシーンがあるでしょう。共働きで帰宅が遅くなるときに育児や家事をお願いする。義親がさらに年を重ねれば、「ちょっと買い物に付き合って」とか「病院に付き添って」という場面も多くなるでしょう。さらに介護が必要になった際には当然、負担を強いられることは目に見えています。二世帯住宅にする以上は“お互い様”の姿勢が重要です。しかし香織さんは段々と自信がなくなっていったといいます。

 

「“家賃”は、単に考えるきっかけになったに過ぎません。目先のお金のことばかりに目がいっていましたが、二世帯住宅の場合、関係が悪くなったからといって引き返すことはできません」

 

株式会社AlbaLinkが既婚者に対して行った『義両親との関係』についてのアンケート調査によると、「義両親とうまく付き合うための工夫」として最も多く挙がったのが「距離感を保つ」で22.8%。「プレゼントを贈る」20.0%、「コミュニケーションをとる」17.0%、「挨拶・お礼を欠かさない」11.4%と続きました。トップ以外は、「適度な距離感にいる」ことが前提の答えかもしれません。いずれにせよ、義親とうまく付き合うには、二世帯住宅は近すぎる――そう思うのも無理のない話です。

 

そこで香織さんが提示したのは「条件付きでの同居承諾」。

 

・今後、義両親に関する世話は夫が中心となり行うこと

・リフォーム費用と“家賃”の支出に関して、家計への影響をあらかじめ数値で共有すること

・将来、揉め事が発生した場合に備えた取り決めを同居前に行い、書面に残すこと

 

「条件をのめないなら、同居話は白紙」と告げました。厚生労働省『令和4年国民生活基礎調査』によると、要介護者からみた主な介護者の続柄は、同居の場合、トップは「配偶者」(全体の22.9%)、続いて「子」(16.2%)、そして「子の配偶者」(5.4%)。また性別でみたとき「男性」が31.1%に対し、「女性」は68.9%。この結果から鑑みると、仮に義親に介護が必要になったとき、香織さんが先頭に立って介護にあたらなければならない――そんな未来が見えてくるわけです。

 

「このままでは惰性で色々な負担を背負わなければならなくなる。それだけは避けたかった。二世帯住宅での同居を機会に、これまでの不満もすべて解消しようと思ったんです」

 

和也さんは、香織さんが突きつけた条件を渋々飲んだといいます。

 

[参考資料]

株式会社一条工務店『共働き夫婦の家事シェアに関する意識調査2024』

株式会社AlbaLink『義両親との関係についてのアンケート調査』

厚生労働省『令和4年国民生活基礎調査』