老後、多くの夫婦の生活費は、主に年金収入が軸となるでしょう。しかし、妻が専業主婦や扶養内パートだった夫婦は特に注意が必要です。もし夫が先に亡くなると、年金が大きく減少するリスクがあります。本記事では、別府さん(仮名)の事例とともに、高齢者世帯が現役時代に備えるべきことについて、FP事務所MoneySmith代表の吉野裕一氏が解説します。※個人の特定を避けるため、事例の一部を改変しています。
世帯月収80万円・地獄の48歳“住宅ローン&子の学費”で息も絶え絶えの長男…追い打ちに、父亡きあと年金激減・田舎の73歳母からのSOSで悶絶「ど、どうすれば?」【FPの助言】 (※写真はイメージです/PIXTA)

母の生活が苦しい理由

総務省が公表している「家計調査(収支編)」をみていきます(以下、金額はすべて月額表記)。2024年の65歳以上の家計収支は2人以上世帯で収入が25万2,818円、社会保障や所得税を除いた可処分所得は22万2,462円です。つまり、幸子さんは義男さんと2人で生活していたとき、この統計よりも多く、平均以上の収入を受け取っていたことがみえてきます。

 

同じく単身世帯の場合は、実収入は13万4,116円、可処分所得は12万1,469円と義男さんが亡くなったあとも、平均以上の収入があることがわかります。支出のほうをみてみると、2人以上世帯では、25万6,521円で収入よりも3万円以上の支出があります。単身世帯でみても14万9,286円と収入よりも多くなっています。

 

別府さん夫婦の収入は平均よりも多いものの、2人で暮らしていたときの生活費は30万円程度でした。義男さんが亡くなったからといって、生活費がそのまま半分になるわけではなく、18万円程度の支出が発生していました。

 

幸子さんも、収入より支出が多いことはわかっていたといいます。しかし、義男さんが退職したときに老後のために貯めていた貯蓄が2,800万円あったこともあり、もともと貯蓄を取り崩しながらの生活が常態化していました。

 

生活水準を変えることができない…

義男さんは現役時代、給与が高い層であったため、老齢厚生年金の受給額の計算の基準となる平均標準報酬額は65万円だったようです。平均標準報酬額は、勤めていた期間における給与の月ごとの標準報酬月額と賞与の標準賞与額の総額を加入期間で割ったものになります。義男さんもほかの多くの元サラリーマンと同様に入社当時の給与は少なかったでしょう。しかし、一定の年齢以降の収入が多くなったことで、平均標準報酬額も高くなりました。50歳以降は月収で80万円を受け取っていたのです。

 

老後の収入が減少しても、現役時代の生活水準を大きく下げることができないまま、貯蓄を取り崩す生活を送っていたそうです。

 

長男の彰さんは「収入が多かったことで、生活水準も高い生活を送っていた」と指摘します。彰さん一家の世帯月収は80万円。住宅ローンと学費が家計を圧迫するなか、昨今の物価高で援助の余裕はありません。「うちも大変なんだ。それに東京はそっちよりも物価が高いんだよ。もっと生活する努力をしてくれよ」と電話越しに訴えました。苛立ちから冷たい言葉を放ってしまいましたが、これからのことを考えなくてはなりません。彰さんは妻と2人、頭を抱えました。