相続は、家族の真の姿を映し出す機会になりがちです。生前は隠されていた金銭問題や、きょうだい間の不公平感。そうした長年の澱が、親の死をきっかけに一気に噴出することも。本記事では桧山さん(仮名)の事例とともに、相続トラブルの落とし穴をFP事務所MoneySmith代表の吉野裕一氏が提案します。※個人の特定を避けるため、事例の一部を改変しています。
絶対に入らないで!…鬼の剣幕で「実家住み・53歳次女」が死守する一室。貯金好きだった年金18万円の82歳母の死後、56歳長女がこじ開けた先で見た「家族の裏の顔」【FPの助言】 (※写真はイメージです/PIXTA)

亡き母が遺したはずの「姉妹で揉めないための通帳」

都内に住む桧山陽子(仮名)さんは、現在56歳。子ども2人はすでに独立し、夫の浩一(仮名)さんと二人暮らしです。

 

陽子さんには、3つ年下の妹・啓子さん(仮名)がいます。啓子さんは、3年前に離婚し、子どもを連れて実家に出戻り、母親と同居していました。啓子さんの大学4年生の長男と大学1年生の長女は、2人とも実家から大学に通っています。

 

陽子さんと啓子さんの母親は、娘2人を大学まで行かせるために、若いころから真面目に働き、コツコツと貯蓄を続けてきたしっかり者。7年前に父親が他界したあとも、自身の年金をすべて使い切ることなく、貯蓄に回していました。

 

しかし、その母親も80歳を過ぎたころから体調を崩しがちになり、82歳で他界。陽子さんは、葬儀や実家の整理、相続手続きのため、しばらく実家に泊まり込むことにしました。

 

父親が亡くなったとき、母親は「あなたたち姉妹は決して揉めないでね。ちゃんと通帳を2つにわけて準備しているから」と話していました。陽子さんは中身をみたことはありませんでしたが、同居していた啓子さんからも、確かにその通帳はあると聞いていました。

 

そして、遺品整理を進めるなか、母親名義の、ほぼ同額が記された通帳が2冊、確かにみつかったのです。

妹が頑なに入室を拒む部屋、取引履歴の異変

古い実家は部屋数が多く、姉妹2人で片付けていきました。預貯金や現金などを確認しながら整理を進めていましたが、納戸として使われていたはずの一室の前に来た途端、啓子さんの表情が豹変します。なぜかその一部屋だけ、「ここは私が一人でやるから」と、陽子さんを頑なに入れようとしないのです。

 

「なんでよ。一緒にやったほうが早いでしょ」とドアノブに手をかけると、啓子さんは陽子さんの前に立ちはだかり、「絶対に入らないで!」と叫びました。ただならぬ雰囲気で、表情はみるみる歪みます。

 

怪しい態度に陽子さんが問い詰めると、啓子さんは大汗をかき、しどろもどろになるばかり。胸騒ぎを覚えた陽子さんは、もう一度、母が遺した2冊の通帳の取引履歴を詳細に確認しました。すると、啓子さんが実家に戻ってきた3年前を境に、それまで一定だった入金額が不自然に減っていることに気づいたのです。