配偶者を亡くしたあとの生活設計において、多くの人が頼りにするのが「遺族年金」です。しかし、実際の支給額を見て戸惑う人も少なくありません。予想とかけ離れた金額に直面し、老後の家計が一変してしまう可能性もゼロではないのです。
年金月16万円・66歳の夫を亡くした69歳の年上妻、「遺族年金は亡夫の年金の4分の3」と言っていた友人に八つ当たり。「想定の20分の1」の遺族年金額に目が点「何かの間違いでは」 (※写真はイメージです/PIXTA)

「4分の3くらいもらえる」と思い込んでいた遺族年金の誤算

だからこそ、実際に届いた通知に記載された「5,000円」という金額には、強い違和感があったといいます。思わず友人に「夫の年金の4分の3なんて嘘じゃない!」と八つ当たりし、年金事務所には「計算間違いじゃない?」と言いがかりをつけました。しかし返ってきたのは「その金額で間違いありません」という回答。そこで初めて、智子さんは遺族年金制度の複雑さを知ることになります。

 

一般的に、遺族年金には「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」があります。しかし、遺族基礎年金は「子のある配偶者」に支給されるため、智子さんのように子が独立した配偶者は対象外。一方で、夫が会社員時代に加入していた厚生年金の一部をもとに算出される「遺族厚生年金」は、一定の条件を満たせば受け取れる制度です。

 

その支給額は、亡くなった人の「報酬比例部分」の4分の3が基本です。しかし、ここで注意が必要なのは、「遺族年金は亡くなった人の年金の4分の3」ではなく、「遺族厚生年金は亡くなった人の厚生年金の4分の3」という事実。ベースとなるのは基礎年金を含めない年金額です。

 

さらに、65歳以上で老齢厚生年金を受け取る権利のある人が、配偶者の死亡による遺族厚生年金を受け取るときは、「死亡した人の老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3の額」と「死亡した人の老齢厚生年金の報酬比例部分の額の2分の1の額と自身の老齢厚生年金の額の2分の1の額を合算した額」を比較し、高いほうの額が遺族厚生年金の額になります。このルールで計算すると、智子さんの場合、遺族厚生年金は月額8.7万円です。

 

しかし、「65歳以上で遺族厚生年金と老齢厚生年金を受ける権利がある人は、老齢厚生年金は全額支給となり、遺族厚生年金は老齢厚生年金に相当する額の支給が停止となる」というルールもあります。智子さんが受け取っている老齢厚生年金は月額8.2万円。差額となる5,000円が支給され、残り8.2万円は支給停止となります。

 

「遺族年金は夫の年金の4分の3」という言い回しは、ずいぶんと浸透しているようです。しかし、この説明では不十分であることがわかるでしょう。

 

老後資金における備えとして、年金制度の詳細を理解することは不可欠です。「ねんきん定期便」や「ねんきんネット」を活用し、夫婦それぞれの年金受取見込額を確認しておくこと、そして「どちらかが先に亡くなった場合に、いくらの年金が受け取れるのか」を試算しておくことは、将来への安心につながります。

 

「まさか5,000円とは……」と肩を落とす智子さん。遺族年金という制度に対する思い込みが、思わぬ生活設計の落とし穴となる――そんなケースは他人事ではありません。

 

[参考資料]

日本年金機構『』