
元公務員夫婦のゆとりある生活。老後資金は十分なはずだった…
ともに地方公務員だったという吉岡信一さん・明美さん夫婦(ともに仮名/66歳)。月32万円ほどの年金で悠々自適な生活を送っていました。ふたりが定年で受け取った退職金4,000万円。コツコツと貯めてきた貯金は2,000万円ほどあります。老後を迎えるにあたって、金銭面の不安はほとんどなかったといいます。
ところが、そんな平穏な老後生活が、ある日を境に大きく揺らぐことになります。その発端は、信一さんが定年退職後に始めた、ひとつの趣味でした。
もともと信一さんは「家でじっとしていられない性分」で、退職して間もなくホームセンターに通うようになりました。小さいころは工作が好きで、親といわゆる“日曜大工”を楽しんでいたといいます。定年を機に、「そういえば、昔はよく日曜大工をしていたな」と、DIY関連の動画を観るように。そこで信一さんのやる気にスイッチが入ります。ちょうど妻・明美さんが「雨戸がうまくひらかない……」とボヤいているのを聞いていたのです。
「業者に頼むより、自分でできることは自分でやろうと思って」と、動画を頼りに見よう見まねで修繕。「意外と簡単にできるもんだ」と手ごたえを感じた信一さんは、次にウッドデッキのペンキ塗りで、まるで新築のころのような雰囲気に。
こうして次第に作業は本格化。ネット動画や書籍を参考に、外壁の目地補修や電気まわりの器具交換、さらには防水塗装まで手を出すようになります。「工務店に見積もってもらったら20万円以上したんだ。それなら自分でやったほうが早いし安いと思ってね」と、費用対効果を口にする信一さん。やりがいもあったようで、時間を忘れて作業に没頭する日々が続きました。
明美さんは最初、「元気で何より」と目を細めていたそうですが、やがてDIY漬けの毎日に、少しずつ不安を感じ始めます。