(※写真はイメージです/PIXTA)
「もう少し我慢すれば」と思いながらも、終わりが見えない
誠さんが働くコンビニは、自宅から徒歩5分ほどの距離にあります。深夜や早朝のシフトは避け、日中の比較的負担の少ない時間帯を選んでいますが、それでも72歳の体には堪えるものがあるそうです。
「若い子と一緒に動くのは、やっぱりしんどいですね。足腰も痛いし、覚えることも多い。『覚えが悪くなったな』と自分でも感じます」
それでも、やめるわけにはいかない――。住宅ローンと借入金の返済は70代になっても終わらず、今後、医療費が増えていくことを考えると、今からでも貯金を増やしていきたい。妻・幸子さんもスーパーでのパートを始め、夫婦二人三脚で頑張っています。
「もう少し我慢すれば楽になると思ってはいるんですが……先がまったくみえません」
年金を繰り下げれば、そのぶん多く受け取れる――その情報をもとに、誠さんは廃業する年まで年金を繰り下げました。増額率42%、自営業ながら年金月15万円という数字はたしかに魅力的に映るでしょう。
「年金が増えても借金の返済でほとんど消える。店も65歳で踏ん切りをつけて年金生活に入っていたら、こんなに借金を背負うことはなかったかもしれない。もう少し頑張れば年金も増えるし、お店も頑張って続けよう思ってしまったんですよね」
厚生労働省『令和5年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況』によれば、基礎年金に加え、厚生年金も受給する人のうち、繰り下げ受給を選択した人の割合はわずか1.6%。多くの人が65歳を基準に年金を受け取るなかで、少数派にあたる「繰り下げ派」が誠さんでした。「少しでも多く年金がもらえるように」と思って繰り下げたのは間違いではありません。結果論ではありますが、誠さんの場合、年金の繰り下げが生活を楽にしてくれることにはなりませんでした。
「持ち家があれば安心、年金を増やせば大丈夫、という過信がどこかにあった」と誠さん。「住宅ローンや家の修繕費」「医療費や介護費用」「通信費や保険料の固定支出」「物価上昇による食費・日用品の負担増」……老後の生活設計、振り返ればすべてが甘かったといいます。
「せめて借金だけでも早く返したい」
その思いだけで、今はアルバイトを頑張っています。
[参考資料]
日本年金機構『年金の繰下げ受給』
厚生労働省『令和5年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況』