高齢の親との距離感に悩む子ども世代が増えています。「何かあったらいってね」と言っていても、実際に連絡が来れば「自分で何とかしてほしい」と思ってしまう。そのような葛藤の中で、「親の老い」とどう向き合えばいいのか分からないまま時間だけが過ぎていくのが現実です。
年金もらってるでしょ?月13万円で暮らす〈80歳の母〉が絶句。〈58歳娘〉の痛烈なひと言が引き起こした「まさかの顛末」 (※写真はイメージです/PIXTA)

「迷惑はかけない」が口癖の80歳母

都内の戸建てで1人暮らしをしている増田久子さん(仮名・80歳)。3年前に夫を亡くし、その後は「人に頼らず、自分のことは自分でする」とつつましい生活を送ってきました。年金は自身の年金と夫の遺族年金を合わせて月に13万円。決して多くはありませんが、持ち家で家賃の心配もなく、日々の生活費を切り詰めることで、何とか暮らしを維持しています。

 

久子さんの楽しみは、近所のスーパーでの買い物と、月に1度通う美容院。たまに会う友人との時間も大切なものでした。1人娘の綾子さん(仮名・58歳)は家族と郊外に住み、定期的に電話をする仲。つかず離れずの関係でした。

 

ある日、久子さんは自宅の玄関先でつまずき、軽い捻挫をしてしまいます。自力で歩けなくはなかったものの、病院への移動が不安で、久しぶりに綾子さんに電話をかけました。しかし、そこで返ってきたのは思いがけない言葉でした。

 

「年金もらってるでしょ?タクシーを使えばいいじゃない」

 

久子さんは一瞬、言葉を失いました。綾子さんに悪気はなかったかもしれません。実際に駆けつけるとなると1時間以上かかります。自分でタクシーを呼ぶのが現実的だったでしょう。しかし、この一言はこれまで1人で頑張ってきた久子さんの心に大きな影を落とすことになります。

 

綾子さんにそう言われたあと、久子さんは「もう何があっても、娘には頼るまい」と心に決めました。もともと自立心が強かった彼女ですが、この出来事をきっかけに、頼ること自体を避けるようになったのです。その後、久子さんは多少の体調不良でも病院へ1人で向かい、綾子さんに連絡を入れることはなくなりました。地域包括支援センターから勧められた訪問支援も、「娘に頼れないのに、他人に頼るなんて」と断ってしまいました。高齢者にありがちな頑固さが、悪い方へ悪い方へと進んでいってしまったのです。